建築学概論



秋に種を撒いても芽は出ない。


冒頭、海辺の廃屋にやってきた彼女は、指の股が見える流行りのハイヒール、サイズの合っていないワンピース(単に痩せてるから?)、どこか無理をしているように見える。「ノックすること」と書かれたドアをノックせずに開けると、その部屋だけ、時が止まったかのようにきれいに保たれている。
一方、建築事務所で徹夜仕事明けの彼。上司に注文を付けられると「派手な方が受けるから」と、これまた無理をしているように伺える。彼は煙草を、周囲が吸っていた学生時代には吸えず、受動喫煙だ何だと言われるようになった今では吸わずにいられない。
二人とも、時代と合っていないように思われる。元々そうなのかもしれないし、「過去」がそうさせているのかもしれない。そんな二人が、芽の出なかった過去を掘り起こすことで、新たなスタートを切るまでの物語。今度の苗は育つだろう、という予感で終わる。


タイトルは二人の出会いとなった、「誰でも(どんな学部の生徒でも)受けられる」授業、建築学「概論」のこと。教室での真の「出会い」、あんなにエロティックでロマンティックなのってない。始めに引くのと後で引かれるの、どっちがどきどきするかなと想像した。彼が引く時、彼女の顔が映されないことから、やっぱりこれはまず彼の物語なんだなと思った。
作中一番印象的だったのは、彼と会う約束をした店で、一つだけ空いた席に置かれた、贈り物の入った彼女の鞄がやけに大きく見えるショット。ああいうのぐっとくる。


ストーリーはいいと思うし、「ラスト」もあれしかない!けど、いまいち心が沿わなかったのは、場面ごとに、何か足りない感じがしたからかな。だから、二人とも「共感」できるキャラクターじゃないだけに「慰謝料たくさんもらったんだな」「えっ、そんなことでもう会わないなんて言われるの」などの邪念?で気が散ってしまう(笑)
婚約者の「リノベーションするのよ」というセリフが本作の「テーマ」、「家」に限らず自らの過去を認めて土台にしようってことなんだけど、それにまつわる「小道具」が多すぎて、気持ちが分散されてしまったというのもある。映画の小道具なんて、メインは牛乳パック一つとか、それくらいでいいのに!(笑)


「誕生日だろ、わかめスープでも食べるか」というセリフに「?」と思ったので調べてみたら、韓国では誕生日にわかめスープがつきもの、加えて二人が食べてたウニ入りは彼女の故郷である済州島の名物だと分かった。食事シーンがふんだんにあるのは楽しかったけど、私にはちょっときれいすぎたのか、あまりそそられず。