カリフォルニア・ドールズ




「私は傷つかない、最低の男に何を言われても」


最高だった!上記のセリフに、アイリス(ヴィッキー・フレデリック)が「枕営業」に怒ったハリー(ピーター・フォーク)を殴り返したのは(彼女にとってはあんなの、ハエが停まったくらいのもので、全く堪えてなかったのに)、彼が「最高の男」だから、と気付いて涙があふれた。


女子プロレスラーカリフォルニア・ドールズ」とマネージャーのドサ回りの日々。ひと仕事を終えた三人が「正当は物入り(ちゃんとしたものにはお金が掛かるから、欲しがらない!)」を合言葉に、工業地帯の線路脇の道を、列車と反対方向に車で走り出す冒頭から胸がいっぱいになった。ジャンクフードを三度食べ、怪我をすれば獣医に診てもらう。手にするのは、流れ流れるくしゃくしゃの紙幣ばかり。
彼女達が泥レスに泣くのも分かる。「胸と尻」しか見られていないからっていうんじゃなく、プロレスの試合の場面では「闘う目的」なんて思いも及ばなかった、闘うのが「自然」に感じられたけど、泥レスの場面では、何で闘ってるんだろ?とふと思ってしまったもの。


ドールズがリングの上に居る限り、やきもきしながらうろついているハリーの絶え間ない言葉は、彼女達に、いや誰にも届いていない、というか、届いているか否か分からない。外に出ると車のトランク備え付けのバットで暴れまくるのはそのせいじゃないか、なんて勘繰ってしまった。彼はバットでもって殴りまくる、最低の男のメルセデスベンツを、自販機を、そして悪者を。ただし最後の試合では、アイリスにキスされるカットから、もしかしたら彼の言葉、届いてるのかな、と思う。


ドールズ二人の、ベタベタせずともしっかり繋がっている感じの間柄がいい。「薬物を止めないと将来困るわよ」「あなたに関係あるの?」「あると思うけど、どう?」…と答える黒髪のアイリスは、最後の「敵」への一言からも分かるように、冷静で思慮深いタイプ。モリーの方は自身でいわく「頭がバカな分、体は丈夫なの」。並んだショットは少ないけどどれも印象的。ツインベッド、カジノのスロット(「なんで私たちはゲームをやらせてもらえないの?」)、そして最後のアレ!
ハリーの車に乗り込む位置、いつも決まってるんだなと思っていたら、程無くその訳が分かる。モリーがアイリスとハリーのやりとりをいつもこっそり聞いているのがいい。一度目はユーモラスに、二度目は真剣に。
後は、ハリーのセリフだけじゃなく、二人の「お楽しみ」シーンでもあればいいなと思った(笑)


最後の試合のドールズの登場シーンの素晴らしいこと。彼女達の美しさと男の尻と、見るのに忙しかったけど(笑)ドールズが辛酸を舐めてきたと知っているからこそ、あの衣装が、羽が輝いて見える。リングに上ってウィッグを外すシーンがちゃんと在るのもいい、あれは三人が意志を摺り合わせてやってきたことの証しだから。
前半では、私もプロレスちょっとやってみたいな、脚の長さは足りないけど(少なくともあの車の乗り方はムリ←昼食前のトレーニングの後のね)なんて思ってたけど、この試合でそれどころじゃないと分かった、全然ぶちのめされた。撮り方もあるんだろうけど、ほんとに「プロ」のレスリングなんだなって。


それにしても、最低の男…いや最低の権力者、最低の世界の鼻を明かすためには、あれほどの血と汗を流さなきゃならないのかとつくづく思った。一発逆転できたところで明日の保証も無い。「だけど私は飛ぶ」というあの羽の美しさが、今でも脳裏に焼きついている。
(あの興行師の女性はプロレスラー出身なんだろうか、ということを観ながらずっと考えてた。彼女達は将来どうするんだろう?)



本作を観たのはキネカ大森の名画座企画。私としては上京以来初めての「二本立て」、本作の後に同じくアルドリッチの「合衆国最後の日」。これだってすごく面白いけど、「カリフォルニア・ドールズ」の余韻で冒頭しばらく入り込めなかった。私には休憩30分は必要だな(笑・それじゃあ劇場、回らないけど)
でもこの組み合わせはいいと思う。「合衆国」の冒頭は、人対人だった「カリフォルニア」と違い人対モノのクロースアップが続くから、気持ちが切り替えられる。時計の秒数が進んでいくのと減っていくのもいい対比。「日本」が関係してるのは共通点。


ところで「合衆国最後の日」に、リチャード・ウィドマーク演じるマッケンジー将軍が家族と教会に居る際ポケベル?が鳴ると、周囲の皆が(彼が恥ずかしいことをした、という風に)笑い出す場面があった。これって、そういう機器がまだ珍しかったからだろうか、それともお国柄なんだろうか。今のアメリカならどうなるかな、なんて考えた。


帰りに、以前大森に来た際に知った珈琲亭ルアンに寄って、カフェドリーム。アイスのみを盛り付けたきれいなグラスに、店員さんがコーヒーを注いでくれる。アイスを食べて、アイスの溶けたコーヒーを飲んでいくと、底にはざらめ。最後まで美味しくいただいた。