ママはレスリング・クイーン




「これはプロレスだよ」


「北」フランスの田舎町。「ハッピーマーケット」のレジ係に就職したローズ(マリルー・ベリ)は離れて暮らす息子ミカエルと数年ぶりに再会するもつれなくされる。彼がWWEのファンだと知った彼女は、かつての「獅子王」リシャール(アンドレ・デュソリエ)にコーチを依頼。同僚のコレット(ナタリー・バイ)達を誘ってプロレスチームを結成、メキシコのチームとの対戦に向け練習を始める。


まずカメラが軽い。軽いっていうのは、視点が、よく言えば自由な感じ、よく言わなければいい加減っぽい感じ。それがいい。だって私はこういう映画を見たら、砂浜での腹筋すら傍から真似したくなっちゃうくらいだから、カメラが腰据えてたら座っていられないもの(笑)よし、冒頭のシーンに戻ってきたぞ!え〜っていう(笑・見た人には分かる)あの軽さ、あるいは逆のことを言ってるように聞こえるかもしれないけど誠実さ、もいい。


遠慮せず体を使ってるのがいい。地元でジムを経営するリシャールを訪ねたローズは、居眠り中の彼を起こすのに足元のゴミ箱?を蹴る。息子の部屋で掃除中のコレットは、掃除機のスイッチを足で止める。汗や小便(「小便」としか言えない・笑)に、試合に向かう車内での振り付き歌唱、「入り」の時の思わずのキス、全てが繋がっている。
時折映る下着や裸は「彼女」のものでありそれ以上の意味は無い、それが、「女の性器、ひいては全ては自分自身のものである」という大切なことを唱えている。そもそも作中の彼女達にとってはそれが「当たり前」で、全員一緒になって何のことは無くシャワーを浴びてる、あの感じがいい。


それぞれの「キャラクター」を決めるくだりが面白い。「プロレス」ゆえだから、例えば二つ名を名乗るのみの「ローラーガールズ・ダイアリー」に勝る部分。試合当日、ライトに照らされた「カラミティ・ジェス」(オドレイ・フルーロ)の赤毛の輝きに涙。その後の入場の仕方は、彼女の心境の変化に沿い、練習の時とは違っている(この「違い」から心境の変化の方を察しなければならないという類の映画ではある・笑)周囲とのやりとりを経て「肉切り」をまっとうするヴィヴィアン(コリンヌ・マシエロ)、駐車場での「すっごく気持ちいい!」心持を経て跳ぶコレット
ヒューマントラストシネマ有楽町には本作で使用された衣装が展示されているんだけど、見る前はふーん、という感じだったのが、見た後にはふーん!と変わる(笑)衣装には心が表れるものだと改めて思う。


女がプロレスをやるとなると「カリフォルニア・ドールズ」でも本作でも、試合の…正確には「入場」のシーンにびんびん琴線が触れて泣けてしまう(試合に入ると涙は乾いてわくわくする)。予告編を見た時から涙がこぼれそうだったから、それ以前の「ドラマ」がそれほどありきってわけでもない。これが自分でも不思議。
本作を見ての感動は「カリフォルニア・ドールズ」には及ばないけど、どっちの人生がいいかっていうと、こっちの方がいい(笑)ってことは、こっちの映画の方が見てて楽、という「よさ」がある。映画には、頑張りつつも気楽に生きてる女をもっともっと描いてほしい。


ナタリー・バイが労働組合の代表を演じるなんて。彼女達がクビにされそうになると、客達が「再雇用しなければ店を乗り換える」なんてぶち上げる、経営者の方は経営者の方で彼女達を利用する、というのが何となく「フランス」ぽいなと思う。バイ演じる、4人の中では比較的「良妻賢母」的なコレットが、入場の練習の際、見物してる女の子が文句を付けると事も無げに「うるさい子」と言う、ああいうのって好き。ちなみにジムの半分がバレエスタジオというの、「ママに言われて」踊ってる子も確かにいるけど、見ていると、プロレスもバレエもそんなに違いは無い、シームレスな感じがして、それもいい。
最後に、なにげに動物虐待ギャグの数々(そんなに「悲惨」じゃないよ!)があるのも好み。あれらはイギリス風かな(笑)