ヒプノティスト 催眠



面白かった!今世紀になっても、ラッセ・ハルストレム監督作が劇場に掛かる度に出向いてた甲斐があった(笑)「スウェーデンのベストセラー小説」が原作のサスペンスもの。


冒頭、「ヒプノティスト(催眠療法士)」のエリック(ミカエル・パーシュブラント)の所に掛かってくる真夜中の電話を受けるのは、彼ではなく妻のシモーヌレナ・オリン)。彼女は二人のうち「受けてしまう」立場なのだ。
エリックはシモーヌと他一人に対し、償いようのないことをしてしまった過去がある。シモーヌの方は、このことにより元々不安に苛まされていたのが、事件により更に追い詰められるはめになる。睡眠薬を飲んで寝てしまい、息子が誘拐されても食事を取る夫が、眠ることも食べることも出来ない彼女には許せない。そのすれ違いが、二人の役者によりスクリーンに焼き付けられていく。
この物語は「殺人事件」と夫婦の関係の二本柱で構成されている。事件解決の前に、夫婦が愛によって「催眠」を行う場面が第一のクライマックスとして置かれている。「浮気」をした夫を「信じようとしてもダメ」だった妻が、彼を信じて催眠を受ける。「催眠」を通じて愛を取り戻すわけではなく、いつの間にか愛が復活していたので「催眠」が出来た、というのは釈然としないけど(そもそも、なぜこの「催眠」にのみ信頼が必要なんだ?)、指輪を外さない二人の様子から、元々信じ合いたかった気持ちが行為によって固まったのだろう、と考えることにする(笑)


ハルストレムが「やかまし村」シリーズ以来二十数年振りに故郷のスウェーデンで撮った作品ということで、「北欧ならでは」の映像が感慨深い。昨今の「北欧ミステリー」とは一味違う暖かさが懐かしい。時折挿入される、またエンドクレジットに延々流れるストックホルムの街の空撮、室内を彩る燭台「風」の灯り(レストランのみ本物)、ラストに不意に挿入されるユーモア。
最後の捕り物では、「この先は歩いて行くぞ」とスノーモービルを降りた警官達が、キラキラ光る静かな雪原の一軒家に踏み込む。その後に待ち受けるクライマックスは、いつの間にか薄暗くなっている湖の氷上にて。規模の大きなアクションじゃないし極めてオーソドックスな映像なのに(それがとても好み)スリル満点、客席の一体感があったこと!(笑)
監督のパートナーであるレナ・オリンが夫に催眠をかけられる際の「君は草原の中にいる、見上げると家がある、ぼくらの家だ…」という情景がどうしようもなくハルストレムらしく、これを見られただけで劇場に行った甲斐があった。「催眠」場面の内このシーンのみ、催眠を受けている者の視点でなく彼女ごと包んだ映像になっており、「愛」が満ちている。
全篇を通じて、レナ・オリン様が「あったか靴下」的なものを履いてるのも新鮮で楽しかった。最後はあったか帽子も被る(笑)だって彼女にしたって世界進出、すなわち「存在の耐えられない軽さ」以降初めての雪国映画じゃない?(私が観てないだけで、もしかしたら何か出てたのかな?)


もう一人のメインキャストは国家警察のヨーナ(演じるのは新人さん?向こうのよくある顔の好青年)。冒頭の「青い線」の描写に表れているように、事件解決のためなら「一歩踏み込んでしまう」彼とエリックは、「相棒」ってほどじゃないけどちょっとした似た者同士。夕食中のエリックがシモーヌに「よく食べられるわね」と食事を引っくり返された後、ヨーナが「残虐な」写真を見ながら一人パスタを食べている場面に繋がることからも分かる(もっともラストシーンからして、ヨーナはコメディ担当なんだろうか?)
エリックとヨーナ、それぞれのプロならではの能力が同じことを指し示す場面には興奮させられた。何だかんだで「犯人を取り逃がす」だけのこのくだりが結構楽しいのが、さすが職人技といった感じ(笑)


観ながらふと、数日前にテレビで放映されていた「白い恐怖」を思い出した(これは私の初めてのヒッチコック、子どもの頃テレビで見た時には監督名など知らなかったけど)。違う「療法」ものだけど、愛が絡んでくるあたり少し似てるかなと。