デンジャラス・ラン



山場続きで胃もたれするけど、これはライアン(レイノルズ)が一気に大人になる話だからしょうがないかと思う。何やってるのかよく分からないアクションシーンも、ライアンにはこう見えてたのかと思う(笑)


オープニング、ライアン演じるマットはサンドバッグを叩いている。場面替わって仕事場の「safe house(隠れ家=原題)」において、彼がドアを閉める音、壁の備品を蹴る音、「初仕事」の命を受ける直前にテニスボールを壁にぶつけている音、「優秀」ながら閑職に付かされている(と思っている)新米の苛立ちが伝わってくる。後に分かるように、それは誰もが通る道、しかも勤務地はケープタウンという「都会」なんだから「恵まれてる」方なんだけども。
しかしデンゼル・ワシントン演じる「伝説の男」トビンと出会ってから、彼の放つ音は、人を殴ったり銃で撃ったりする衝撃に変わるのだった。


面白いのは二人のキャラクター。マットはトビンを連行してきた尋問班に「カメラを切れ」と言われ従うが、初めて目にする「拷問」に「合法なのか?」と聞かずにはおれない(新米に対する返答は無い)。そこへ追手の襲撃、トビンに「お前の仕事は『客』を守ることだ」と言われ、迷ったあげく彼を連れて逃亡。よほど「職務に忠実」なのかと思う。
しかし無我夢中のカーチェイスを経てしばらくするうち、違和感を覚える。中盤、とある目的のためにスタジアムに向かうにあたり、電話の向こうの上司は「騒ぎを起こすなよ」と言う。しかしマットは「正当防衛だから」と警備員をあっさり撃ち殺してしまう。「一般人」の死に胸が痛くなるが、彼はそう感じていない、もしくは麻痺状態にあるようだ。
「プロしか殺さない」のが信条のトビンは、後に「無関係の人を殺すな」と諭す。本作のキャッチコピーは「お前は悪魔と逃げている」だけど、デンゼルは全然悪魔じゃない。マットが人を手に掛けているのをじっと見ている姿…いずれも少し離れて立ってる姿は「神」のようにも見える。この何だかよく分からない感じがいい。


パスポートを作るために伸びきった髪と髭を剃ったトビンは若返り、久々に会った旧友に「Black Dorian Gray!」と言われる。要所でパンチや屋根から屋根へのジャンプなど(スタントにせよ)アクションを見せるが、眼の老いは致し方ないようで、その友に老眼鏡を借りる。こういう場面っていい。ついでにパスポート用の笑顔も!最後の姿は、ドリアン・グレイの術が解けたようだった。


クレジットの三番目にヴェラ・ファーミガ様。CIAのアフリカ支局長役ということで、制服姿に「ミッション:8ミニッツ」を思い出したけど、本作では、この立場ならこうするだろう、ということをするだけ。その何でもなさが却って面白くもある。フィルムの色調により、目の碧さがより強調されていた。