ビューティー・インサイド



小さなスクリーンながらほぼ満席のTOHOシネマズ新宿にて観賞。「目覚めるたびに『外見』が変わる」青年の恋愛ものとしか知らずに見てみたら、面白かった。韓国映画でお馴染みの面々が次々登場するのも嬉しい。


家具職人のウジンと家具店で働くイス(ハン・ヒョジュ)の恋物語には、二人の仕事が大いに関わってくる。イスの「どの客(実はどれもウジン)にも同じ接し方」だが勧めるものは違う、という態度、引いては生き方が、それこそ「The beauty inside」の体現のように思われた。ちなみに同居人の知人に家具職人さんがおり、今も家具を一つ注文中なんだけど、同居人は他にも色々頼みたくなったと言っていた。それから当然、あんな工房、羨ましすぎると(笑)


映像や音も綺麗で見易い。ウジンがイスを初めて誘う場面で、それぞれの顔をかっちり捉えたアップと覗き見しているような遠くからのショットが交互に挿入されるのが妙で気を惹く。時折の、おそらく手ぶれによるドキュメンタリーのような感触が、一陣の風のように感じられる。光の具合も、こんなことめったにないんだけど、本当にまぶしい感じがして、目を伏せたくなるほど。


「同じ服」でも「中身」が変わる、というオープニングで説明されるウジンに対し、中身の方はずっと出ずっぱりのイスは衣装を取っ替え引っ替え。巻物がとても似合っていたけど、ラストシーンで先程までのマフラーを外しているのは、これから「暖かい」季節に向かうということなのかな。


よかったのは、「日毎に外見が変わる」ならばこんな「問題」が起こるのではと私が想像するようなことを省いて、問題を「恋愛関係」に絞っているところ。これにより話が分かりやすくなるのと同時に、外見が変わるというのは、「変化」するということの大仰な比喩なのではという見方もできる。イスの「『変わる』時の姿こそ本当のあなたの姿」というセリフが面白く、単にそれが「個性」だという意味にも取れるけど、人は「変わる」ところにこそその本質があるとも言える。


加えてよかったのは、中盤から物語の視点がウジンのものからイスのそれへと移るところ、換言すれば「主人公」が替わるところ。「秘密」を知ったイスが、もしかしたらどこかに「彼」が居るかも、と気にしてしまう場面から俄然面白くなる。イスが「彼」にアプローチするのは、「変化」するものに近付いているのではなく、自分が「変化」し始めているというのが正しい(終盤、彼女はそのことに気付く)


「納得済のお付き合い」を始めてからの二人は、一緒に居るのが楽しくてしょうがない。そして「あなたも私も今のままならいいのに」と願う、すなわち進むことを拒否する、それじゃあだめなのだ。必要なのは、「変化」を認めて、自分が一番欲しいものは何なのかを決めることなのだ。なんて、文章にすると陳腐だけど、こうしたことが細やかに、鮮やかに描かれておりぐっとくる。「心」の不具合が「体」に影響を及ぼすという描写もいい。


「外見」を扱っているわけだから、見ていて釈然としない部分もあった。「おばさん」じゃ出られないパーティを催す会社は好きになれない(ウジンの行動はイスの為を思ってのことだとしても、そもそもあの会社、同じような人しか居ない)ある日の(「不細工」と自覚される)ウジンを演じるキム・サンホの切なそうな顔や思い詰めたような表情は、大概の映画で見る顔よりずっと「普通」でよかった。彼の「普通」の恋愛映画なんて見てみたいし、言うなら、この映画の男女逆版だって見てみたい。


最後に余談?だけど、日本のアダルトビデオに詳しいウジンの友人が、「ラブチェア」を見つけて、ふざけて「こんなふうにやるんだ」という時の台詞が「(日本語で)やめてやめて」だったのには、大仰に言うと「それが日本のセックスのイメージなんだ」という感じで嫌気がさしてしまった(これはまあ、この映画の「責任」じゃないけどね)「セックス」的にはコンサバティブな内容。