幸せへのキセキ




「こんな田舎に連れてきちゃってごめんな」
「パパは世界一のパパだよ」


原題「We bought a zoo」。私の中でのタイトルは「がんばれ!ベンジー」いや「ベンジーはじめての冒険」ってとこだな、と思いながら観た。しかし終盤、これは確かに「奇跡」の「軌跡」の物語だな、邦題も間違っちゃいないな、などと思う。


ロサンゼルス在住のコラムニスト、ベンジャミン・ミー(マット・ディモン)は息子と娘との三人暮らし。妻を亡くして半年、自身は仕事を辞め、息子は退学処分となる。心機一転と新居を探すと、娘が一目で決めた町外れの一軒家には「動物園」が付いていた。


冒頭、息子の校則違反で学校に呼ばれたベンジャミンは、風でガタガタ鳴る校長室の窓枠を勝手に直そうとして、校長に「音も風情です」と冷たく言われる。話が進むうち、これは、彼がよかれと思えば遂行してしまうタイプであること、また「音」に敏感になっていることを示してたのかなと思う。
前者については、終盤、息子に「勝手に決めないでよ」というようなことを言われた際、「ここはお前にとっていい環境だ!」とはっきり言い切るところにつながっているような気がした。後者については、ロサンゼルスでは隣家の騒音に悩まされていたのが、引っ越し先で聴こえるのは「騒音」じゃない。夜、自宅での仕事中にふと耳をすませばお喋りと笑い声。つられるように足を向けるベンジャミンの姿がいい。多くの場面で、「音楽」だけじゃなく「音」の使い方がいいなと思った。


息子や娘の体に触れるマット・ディモンの手や腕に、お父さん役をやるようになったんだなあとしみじみ感じ入る。これは「ラブリーボーン」で子どもに接するマーク・ウォルバーグを見た時の気持ちに似ている(この映画好きじゃないけど、マークは最高!)。
飼育員頭のスカーレット・ヨハンソンの、わざとらしい仁王立ちの脚も印象的だった。仕事の時には座っていても力強くふんばってるのが、マットの家のポーチでリラックスしてる際にはそっと組んでいる。その役柄や仕草にヴァージニア・マドセンがふと脳裏に浮かんだ。彼女もその従姉妹役のエル・ファニングもそう好きじゃないけど、本作の二人はとても良かった。エルのぎこちない「感じ」、手書きのメッセージの可愛いこと。あのサンドウィッチは、冒頭に映るサブウェイとの対比なのかな。
長男役の男の子は、変な言い方だけど、まさに「マット・ディモンが美少年だったら」という感じでキュート。エルが思いを寄せるのも分かる。私はやっぱり、女の子が「好きになる」側の話の方が好きだな(片思いでも両思いでも)。幸せはそこにある。また、私には作中一番の「奇跡」は、開園の朝に彼が抱くある直感のように思われた。
そして、「ジャングル・ジョージ」以来トーマス・ヘイデン・チャーチの役柄を見守る会を一人でやってる身としては、彼の「ド素人」ルックが見られたのも嬉しかった。ああいう、板に付いてないカッコの第一人者だもの。


ちなみに、前日マイケル・ウィナー×ブロンソンの「メカニック」(描写が割と素っ気ない)を観たせいか、本作の冒頭は、出てくる皆がこちらに向かって自己紹介しまくってるような妙な感じがして、映画って、前に観たものの影響を受けるんだなと思った。