メリエスの素晴らしき映画魔術



タイトルだけ目にして出掛けたので、「活動期間はわずか16年だった」メリエスのキャリアをざっと紹介し、後半は彩色版「月世界旅行」の修復作業を追うという内容に意表を突かれたけど、以前孫が書いた「魔術師メリエス」を読んだ際、なんてくそ忙しい人だ!という印象ばかり持ってしまったので、前半が詳しくなくて気が散らずよかった(笑)


冒頭、はしゃぎながら街を駆け抜ける男の子たちの古い映像(あれは何?)が、ただそれだけで楽しくて、「映画黎明期」の人の気持ちになる。後半、フィルムの復元は時間との戦いである、とのくだりで再びその映像が登場、欠損した部分が映し出されると、普段は映画なんて無きゃ無いでいい、なんて思ってるくせに、胸が痛くなった。劣化したフィルムの「実物」を見たのは初めて、かびの生えた空色のガムみたいだった。
表立った出来事を追う作りなので、「技術」面にはあまり触れられないけど、メリエス自身によって「世界初のSFX」を発明したエピソードが語られるくだりでは、「魔術師メリエス」の当該箇所を思い出し、これが実物かあ!と嬉しかった。
300人の女性が働く彩色工房なんてのも興味ぶかく、あれだけでも映画にしてほしいくらい。彼女達をまとめる、陶器の色付けのプロ(だっけ?)の女性の話、もっと聞きたかった。どういう基準で色付けてるのかな。やっぱり、というか、なぜ女ばかりなのかな。


冒頭、メリエスの父が靴会社を経営していたというナレーションに合わせて、並んで座った女性たちが脚を組み替えたり笑ったりする映像が挿入されるのにあれっと思う(あれは何?コマーシャルフィルム?)。映画に関する映画を観ると「映画」について思い巡らせてしまう。こういう(その作品のために撮られたわけではない)映像の使用はいつ始まったのか、「ドキュメンタリー映画」はどう発展してきたのか、なんてことを考えた。
後半、発見された彩色版「月世界旅行」の修復に関する内容になると、ナレーションに合わせた古い映画の場面の「引用」が目立つ。「彩色版が見つかった!わーい!」に犬の喜ぶアニメ、「科学者たちは頑張った」に白衣の博士が奮闘するコメディ映画?など。映画に関する映画で、ああいうお遊びっていい。しかし一番印象に残ったのは、何のことはない、修復作業の映像を右上にワイプで映し、メインにその本人が喋ってるというもの。何となく可笑しくて。


トム・ハンクスミシェル・ゴンドリーらがインタビューに答える中、ジャン=ピエール・ジュネが心底羨ましそうにしてたのが印象的だった。「今はもう、ああいう新しい発明なんてほとんど出来ないからね、毎日さぞ刺激的だったろうね」。ふと先月出掛けた特撮博物館のことを思い出した。特撮のこと全然知らないけど、メリエスのこと思い出しながら観て回ったものだ。製作風景、とにかく楽しそうだったもんなあ。


本作に続き、満を持して!当の彩色版「月世界旅行」も上映されたんだけど、寝不足のため(本作の終盤から)ほとんどうとうとしてたので、感想は無し。もう観られる機会、無いかな…


魔術師メリエス―映画の世紀を開いたわが祖父の生涯

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