盗聴犯 死のインサイダー取引



あまりに面白すぎて、観ながら、熱が出て病気になるんじゃないかと思った(笑)こんなにみちみちみっちりの映画にはめったに出会えない。


冒頭、「監視」されている真っ暗なビルに忍び込むジョン(ラウ・チンワン)、ヨン(ルイス・クー)、マックス(ダニエル・ウー)。盗聴器やカメラを手際よく仕掛けていく彼らは香港警察情報課の刑事仲間、「いつもの三人」だ。
また俺らが夜勤?とぶーたれながらも危機一髪で仕事をこなす様子からそれぞれの性分が、帰宅後の様子からそれぞれの事情が分かる。オープニングのねずみからの導入は、こういう仕事は、例え必要であっても、暗闇でごみを漁ってるようなものとも見られるってことか。あるいは見張られてる方も変わりゃしないってことか。
お金には困らないマックス、お金が無くて困っているヨン、愛し合う女と何やら複雑なことになっているジョン。リーダー格のらうちんが上司に「過保護すぎだぞ!」と言われる場面にはににやにやしちゃったけど、その顔には、二人を背負って地に足付けてる重力がしっかり表れていた。


難病の子を抱えたヨンのちょっとした出来心から、三人は監視中に耳にした情報を隠蔽する「共犯」になってしまう。一見おっとりしているマックスが同僚を専門用語で煙に巻いたり、さらりと株を買ってのけたりと、冒頭に根付いたのとはまた「違う顔」が次々と見られて面白い。
なるほどそういう話かと思いきや、その後の展開は想像をはるかに、鮮やかに越えていく。難所を切り抜ける度に更なる難所に陥る様は、借金を借金で返してふくれあがった球が転がり落ちるよう。中盤、海辺にて、ルイクーの「パパだよ〜」の一方で恋人に電話するらうちんの背後の建設中のものを目にして、「先が無い」予感に震える。ガラス越しのある場面にも不吉なものを覚えた。


役作りでぱんぱんの顔に白髪(シャワーの後はやっぱり黒く見える!笑)のルイクーからはヤニと汗の匂いが漂ってくるよう、美少年がそのまま育ったダニエル・ウーはクールなふちなし眼鏡、そして安心の人中のらうちん。開始早々それぞれチャーハン、ピザ、ジャージャー麺(?分からなかった)を頬張り、警備員や配達員のコスプレからトランクス姿まで披露…って、こうして書いてるとほんと、面白いものばかり詰まった映画だな(笑)
音楽だけで魅せる場面の数々も楽しい。頑張って働いてます!の時にはラテンの哀愁って感じのギターの調べ、株価上昇!の時にはドラマチックな曲に続いてドラムロールで入場(笑)あることを知る場面で向こうが音楽流してるというのも変化球だ。


鮮やかな「幕切れ」の後、それを見届けた者の回想の切ないこと!あの屋上での笑顔のオフショットでも見なきゃやってられない。でもまた観たい。