ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳



国家権力に対し「小石を投げ」続ける報道写真家・福島菊次郎に関するドキュメンタリー。とても面白かった。


映画は昨年の「さようなら原発」集会をきびきびと撮影する福島氏に始まる。その後、階段を上るのにおぶわれたり、強風に吹き飛ばされそうになったりする姿に肉体の「老い」を感じさせられるも、再びカメラを構える力強い瞳にフォーカス、タイトル。
効果音と共に、作品の数々がスクリーンに映し出される。年代順に、テーマ(写真集)ごとの作品が幾つか、それについての彼の語り、所々に私生活が織り込まれるといった観易い構成。彼のキャラクターを味わうのと、戦後の日本について知り、考えるのと、どちらの面白さもあふれんばかり。
終盤は福島の立ち入り禁止区域付近での取材の様子。これまでその人となりを追ってきただけに、実際に写真を撮ったり現場の人の話を聞いたりする姿が、冒頭とはまた違って感じられる。


戦時中、福島氏は広島に駐屯していたが、原子爆弾が投下される直前に「有蓋貨車に乗せられ運ばれ、銃も無ければ靴も無く、わらじを履いた特攻要員」となる。戦争に関する意見を聞きながら、年の近い自分の祖父母ならどう言うだろう、などと考えた。
仕事に関するエピソードはどれも面白い。成田闘争の際、NHKの取材グループに逃げ込んで助かった話、撮影されるのを怖れた機動隊が暴力をふるうのをやめたという話。自衛隊でまず「撮ってはいけないところはどこか」と聞き、そこで隠し撮りをしたという話。その指は、カメラを見なくてもピントを合わせることが出来る。
最も心に残ったのは、「今の広島にも撮るものがあるのでは」という問いへの「今はもう、嘘ばかりで撮るものは無い」という返答。そう「断言」できるのがプロたるゆえんというか、さすがだなと思った。タイトル「ニッポンの嘘」とは、この後に続く「根源的なことを言えば、日本全体がもう、嘘っぱち」という彼の言葉から取られている。


ある意味で日本人らしい?語りの中の照れ笑いや、ウーマンリブ運動やかつてのパートナーについて話す際しきりに「いい女」を連発するあたり、人間臭さとでもいうようなものを感じて面白かった。福島氏について長女が「かっこいいですよね、なかなか人前じゃ言えないけど」と言うのも印象的。ちなみにこの人こそ、私には「いい女」に見えた。


想田和弘監督の「Peace」(感想)でも靴流通センターに行く場面が印象的だったけど、ドキュメンタリーにおける買い物シーンって楽しい。本作で福島氏がスクーターに乗って補聴器を買いに出掛ける場面しかり。(補聴器を置いている)眼鏡屋でまず店員に「眼鏡は進歩してるけど、補聴器はあまりしないね」。14万円と言われ「出せるのは5万まで」。私としては、先日の帰省の際に祖母の補聴器を買いに行ったこともあり、余計面白く観た。


予告編で見かけるたびに顔がほころんじゃってたのは、福島氏と暮らす犬のロク。インタビューの途中にふとやってきて隣に座る姿が何ともいえずいい(「毛」だけ映ってる場面も最高・笑)。90歳の福島氏と、犬としては高齢の11歳のロクはパックのごはんを半分ずつ分けて食べる。食欲はあまり無いようなのに、おみやげの干物をかじってみるのが可愛い(笑)たまたまだろうけど、作中映し出される彼の写真に、猫は居ないけど、犬は何匹も居た。