ファミリー・ツリー



新宿ピカデリーにて公開初日に観賞。
オープニングは、予告編でも印象的だった、妻エリザベスの海上での笑顔。ただただ、それを映す。作中彼女に「意思」があるのはこの「過去」の一場面だけ。
愛を伝えたくても怒りたくても出来ない、でも死んでるわけじゃない、でも行き場がない、というのがまず面白い。終盤「何にでも終わりがある」というセリフがあるけど、そう、タイミングなんだと思う。これは機が重なっての物語だ。


宣伝では「ジョージ・クルーニーによる情けないダメ親父」といった文句が目についたけど、そういう感じじゃなかった。少なくとも、絵に描いたような、いかにも「映画的」な「ダメ人間」ではない。彼が演じてるからというわけじゃなく、「妻と数ヶ月会話が無く」「子どもは任せっぱなし」だった風にも見えない。まあ、実際にそういう人を見たことないし、ああいう感じってあるのかもしれない。決してそうは見えないのが、逆に空恐ろしいとも言える。ともかく私には十分「大人」に思われた。彼に限らず、登場人物皆が「普通」に振舞うのが、見ていて気持ちいい。「リアル」というんじゃなく、上手く言えないけど、すごく「まっとう」なのだ。
ルーニー演じる主人公は、久々に会った娘に対し妻の病状をあっさり口に出してしまう考え無し、なんだけど、裏を返せば、娘のボーイフレンドに「君が僕ならどうする?」と聞けちゃうほど素直。しかし自分を律してもおり、妻の浮気に怒ってぬいぐるみを壁に投げ付けながらも、娘に対しては、(妹の前で)母親のことを悪く言うなと叱る。他の男性が皆ハーパン姿なのに、ビーチ以外、人前では決して膝下出さないのも印象的だった。当たり前だけど、一人の人間に、色んな面がある。


中流れるハワイ音楽は映画の効果音として使われるんだけど、唯一「実際に」演奏されてる時、主人公はあることにショックを受ける。このくだりで、彼が頭を壁にもたせかけるカットが二度繰り返されるのと、妻の浮気相手のコテージであるものを見るくだりで、カメラが引いて「遠景」になるのと、この二箇所のみ、ちょっとした映像効果?が目立ち、心に残った。
音といえば、プールで娘に泣かれた後、家の中で今度は自分が「浮気」のことを告げられ、いわば立場が逆転する際、時計のおそらく振り子の音がやたら大きく聞こえるのも面白い。


ルーニーってずっと苦手だったけど、最近そうでもなくなってきた。本作で一番いいなと思った顔は、終盤、病室で責められてる時に若者二人に「パパは悪くない!」とかばわれた時の、何ともいえない表情。あとやっぱり、最後に「ペンを持った」時。
それから「ジャッキー・ブラウン」('97)がオールタイムベストの一つである私としては、この一週間でパム・グリアロバート・フォスターの両方をスクリーンで見られて嬉しい(めったにないことが重なったんだから)。本作でのロバート・フォスターボー・ブリッジスは、さすがに短い出演時間で心を持っていく。フォスターの最後の顔は忘れがたい、彼の知る夫婦の過去はどんなものなんだろう?またボー・ブリッジスは、「金のないいとこたち」の内の一人なんだろうか?
一方娘のボーイフレンド役の男の子は、長丁場の出演で次第にこちらの心に沿ってくる。彼のよさは、ハワイで見てたらもっと分かるかもと思った(笑)