SHAME -シェイム-



冒頭、地下鉄に乗っている主人公ブランドン(マイケル・ファスベンダー)が向かいの席の女性を見るくだりの合間に、彼の暮らしぶりが示される。この手際よさにはわくわくさせられた。以降、省略の技と長回しでもって押したり引いたりしながら、一人の男を浮かび上がらせる。


ヤングアダルト」を観ている時にもふと思ったんだけど、世の中には「セックスの国」の住人と、そうでない人とがいる。その中にも色んな者がおり、例えば彼の上司は単なる「女好き」で何の屈託もないが、ブランドンは、愛やセックスを今みたいな状態に推し進めてきた世の中の、歪みが出てる「部分」なのだと思った。
とはいえ金を払った女に「もっとゆっくり(脱いで)」と言うなど「好み」がある(端的に言えば、やれればいいってわけじゃない)のが、当たり前といえば当たり前なんだけど、面白く感じられた。またファスベンダーが演じてることで、「性欲を抱くこと」が「ギブ&テイク」になってる(と私には感じられた)けど、性的魅力の無い者が主人公ならば、「女」が「搾取」されていることにばかり目が行ってしまうだろうなと思わせられた。
「比べる」ことに意味が無いのは重々承知だけど、「男」の場合、セックスに耽るのに、相手から性的な目で見られる嫌悪感と闘う必要がないんだからいいよなあ、と思わずにはいられなかった(対して「女」は性的な目で見られることと引き換えでないとできない)。妹シシー(キャリー・マリガン)の方はセックスという行為にこだわるわけではないのも「ありがち」というか、その方が作り手としても個人の認識としてもめんどくさくないからでしょ、なんて邪推してしまった。まあ簡単には手に入らないから耽らない、とも考えられるけど。


ブランドンは同僚女性との初「デート」において、「なぜ皆結婚するんだろう?同じ相手と添い遂げるなんてムリだ」とある意味青臭いことを口にする。「普通」に考えたら、やりたいだけだろうとそうでなかろうと、そんなこと言わない方が楽なのに、そのあたりの生真面目さは「(500)日のサマー」のサマーに通じるところがあるなと思った(笑)
この場面については、待ち合わせに遅れてきたブランドンが席に着く、二人のやりとり、彼女がウエイターにお勧めを尋ねる、ウエイターが去り違う話題が持ち上がる、ウエイターが戻ってくるも注文が決まってない…という肩の力が抜けない状況を延々と見せるんだけど、ブランドンの「体感」時間を表してるようで面白い。作中の長回しのほとんどは、彼が心を砕いて誰かと関わっている場面だ。
結婚といえば、始めの女も最後の女も、左の薬指に指輪をしているのがアップになる意味がよく分からなかった。ブランドンのシシーに対する「彼は既婚者だぞ、指輪を見ただろ」というセリフなどと合わせて、作品自体に「婚姻」に対するこだわりを感じた。シシーの「We just come from a bad place」というセリフに根っこがあるとするなら、そのあたりかなと思った。


マイケル・ファスベンダーキャリー・マリガンの組み合わせはやはりよく、大音量の「I want your love」が流れる中の、こちらには半分が鏡越しに見える「再会」場面にはぐっときた。二人が朝の地下鉄のホームでふざけあう場面や、家のテレビの前でぶつかり合う場面は、いずれも彼らの後頭部のアップ。糸くずを「付け返す」の、あの感覚いいなあ、分かるなあと思ってしまった。
生活感はあまり無い。ブランドンが作る朝食の内容は、彼の顔の方ばかり映されてるため見えず、シシーがそれを食べる時も、彼女の顔ばかりでお皿は見えない。
ブランドンの暮らす部屋が、同じところをぐるぐる回れるようになってたり、隅っこにうずくまって座れるようになったりと、「彼」を表すことが出来る作りになってたのが、私にはちょっと安易に思えてしまった。このことに限らず、全体的に、あまりに手の内を明かしすぎてるような気がして、そのへんが好みじゃなかった。


冒頭の地下鉄の場面やバーで股に手を入れる場面など、切羽詰ってる時には煩い秒針のような音がわんわん鳴ってるのが、最後には止んでいるので、あのことを経てそうなったのかな?と思ったけど、それもよく分からなかった。