フェイク・クライム




「無実の罪で服役したんだから、ほんとに銀行強盗したらどうだ?」
 (数年後)
「お前、銀行強盗に誘うためにムショまで会いに来たのか!?」


これは楽しかった!オープニング、昔の映画っぽい色とりどりの明かりの正体が分かり、「あの」水筒(「アクロス・ザ・ユニバース」に出てきたのが印象的)が映り、カメラが引くとしょぼくれたキアヌの姿…この時点で面白そうな匂いがぷんぷんする。私はキアヌといえば「真夜中をぶっとばせ!」が好きだったので、本作が早朝から始まるのが、何となく20年経ったその後の話のようで嬉しかった。


原題は「Henry's Crime」、違う邦題つけるならさしずめ「『キアヌ・リーヴスの』ヘンリーは銀行強盗」ってとこか。宣伝にはクライムサスペンスとあるけど、本国版のポスター(右)から分かるように乗りはゆるいコメディだ。
キアヌの役は、ジャンパーに真ん中分けの髪、卒業アルバムに「Nice Guy」と書かれちゃうような、別れた後に相手の女がキレイになるような男。勝手な想像だけど地に近いんじゃないかと思われる(笑)そんな彼が高校時代のクラスメイトに利用され刑務所へ。古株のジェームズ・カーンと仲良くなる。出所後に舞台女優のヴェラ・ファーミガ様と出会う。劇場と銀行の間に古いトンネルがあったことを知り、とある計画を思いつく。


キアヌとジェームズ・カーンの二人が影響し合うところがいい。「夢はなんだ?」という問いに答えられないキアヌにカーンは「それはよくない」と忠告する。出所後にひらめいたキアヌは面会に行き、平穏な刑務所暮らしを望むカーンを「ここはホームじゃない」と説得する。
いざコンビを組んでみれば、元「信用詐欺師」のカーンは口がうまく役に立つこと。「知的」な役もなかなかはまってる。しかしそこはそれ、よほど卑劣な奴は力でもってぶちのめしてくれる。
また、「バットマン」シリーズのクリスチャンじゃないけど、爺さんとコンビを組むことにより、キアヌの若さの残り火が燃えている。「思い切って」のくじを当てた晩、ナイアガラの滝の前でファーミガ様に「銀行強盗するんだ、ほんとだよ!」と告白する時のキラキラした瞳。ついでに「このCM嫌いよ」と言うファーミガ様に「ぼくは好きだよ、君が出てるから」と答えるのもいい(笑)


冒頭、警備員が朝のコーヒーを買いに来るカフェの感じがいいなと思ったら、その後も度々出てくる。これもポスターから分かる通り、舞台がほとんど小さな街の一角というのがいい。ほんの半径数百メートルの中で、ヘンリー=キアヌの人生が大きく変わり出す。
くすぶってる女優役・ファーミガ様の、フリルいっぱいにパンツという私服姿も素敵(私じゃ絶対できないカッコ・笑)。キアヌが舞台の上の彼女を初めて見る場面で、こんなふうにやればいいんでしょ!と次々「演技」を繰り出す様子は最高にチャーミングだった。