エンディングノート



ガン宣告を受け「エンディングノート」を作成・実行してゆく父親を、娘がカメラで捉えたドキュメンタリー。


「本日はお忙しい中、わたくしごとで御足労いただき、誠にありがとうございます」
全篇に渡り、監督自身が、宮崎あおいみたいな声で、死んだ父親を代弁する形で「ユーモア」混じりに語る。これが私には受け入れ難く、辛抱しながら観た。
本人はそんなこと思ってないだろ!という憤りではない。そもそも「映画」なんだし、「娘が父を撮った」この作品の場合、こういう演出もアリだろう。しかし、監督自身について「段取りが上手くゆかず生まれてしまい」「嫁にも行かずカメラで私を追い回し」、ラストで「私に成り代わって好き勝手喋ってる」と言うようなセンス、加えてエンディングで流れる曲を歌うハナレグミの声も苦手なので、映画全体の雰囲気が自分に合わなかったということだろう。


冒頭、娘に向かって「会社命!」とふざける砂田さん(本心でもあろう)。こういう、いわゆる熱血サラリーマンの、しかも兄弟姉妹三人の家庭って、公務員共働き家庭の一人っ子だった私にとっては「未知の世界」だ。そういう意味で面白く観た。砂田さんは最期に奥さんに「ごくろうさま」と言うけど、うちなら無さそうだな、なんて思ったり(そういうカタチの「苦労」はしてないから)。
しかしドキュメンタリーとしては、例えば最近なら「Peace」(感想)などを観てるから、どうしても比べてしまい、少々物足りなさを感じた。(作中)もうすぐ死ぬってあたりで、BGM付で両親の若き日の映像を長々入れるのも、センチメンタルが過ぎて好みじゃない。クレヨンしんちゃん「オトナ帝国の逆襲」でのヒロシの回想シーンを思い出した(この作品はあまり好きじゃない)。もっとも物足りないのも、センチメンタルになるのも、父から娘、娘から父への気持ちゆえかもしれない。


奥さんに背中を掻いてもらってる砂田さんが、薬を取るためにちょっと席を立つ、背に触れたままの奥さんの手、ああいうちょっとした画がいいな、ドキュメンタリーの素晴らしさだなと思う。
また終盤になると、一日一日が丁寧に撮られ、濃密さを感じ、面白いなと思う。ただ、私も肉親の死に目に立ち会ったことはあるけど、他人のそれは普通なら見られないものだから、その「珍しさ」を面白く感じてるのかもしれない。


エンドクレジットのサンクスリストに「東京の」友達、とあったけど、砂田さんが車窓の外を眺める中央線に始まり、神宮外苑のいちょう祭り、サザンテラスのイルミネーション、虎ノ門病院の個室!から見える東京タワー、最後は麹町からお棺を乗せた車が赤坂に出て終わりという、実に「東京」を舞台にした映画でもあった。始めは単に「知ってるとこだ〜」と楽しく見てたけど、振り返ると、あれこそ砂田さんの生きた町なんだなと思う。