ファッションが教えてくれること


アメリカ版ヴォーグ誌の編集長、アナ・ウィンターを追ったドキュメンタリー。
原題は「September Issue」=9月号。「ファッション業界の年明けは9月、女性たちは新しいことをしたくなる」。取り上げられるのは、一年で最も分厚い9月号が出来上がるまでの5か月間。日本での公開がもう少し早ければよかったかな?



私なんて着ることもなさそうな、高価な服ばかり載ってるヴォーグ誌だけど、作り手側を追ったこのドキュメンタリーの映像や音楽は庶民的だ。ファッションというより仕事の映画。それにヴォーグ誌だって「アメリカ女性の10人に1人が買う」わけだし、最後に売店に並んでる様を見ても分かるように、やはり庶民の娯楽の延長線上にあるものなんだろう。


冒頭、周囲の人々が「『ヴォーグ』はアナの教会」「彼女は教皇」などとコメントする。でも、観る前から予想してたことだけど、素人の私には、アナの何がすごいのか分からなかった。作中で主に彼女がしているのは、「必要以上に気さくにはしないで」スタッフにあれこれ命じることと、これは要らないあれも要らないと判断すること。「アナはすごい」というのは分かるけど、何がすごいのか分からない。
一方、20年来の同僚である、クリエイティブ・ディレクターのグレースの能力は分かりやすい。自ら着付けまでしてプロデュースした写真の数々は、スクリーンで見ても素晴らしい。


観進めるうち、アナとグレースの根っこでのつながりが浮かび上がってくる。一言でいえば、よしながふみの定義による「やおい」っぽい関係(私はそういうのには熱くなれないけど)。
「常に前進」がポリシーのアナに対し、グレースは自らを評して「ロマンティックな過去の遺物」。アナは早々にセレブに目を付けて成功したが、グレースは「セレブには興味がない」。公私共にカラフルな服を好しとするアナと、全身ほぼ黒づくめで、歩きやすそうな靴のグレース。二人が顔を合わせるシーンはほとんどない。「5万ドルを掛けた」仕事をボツにされたグレースは、アナの居ぬ間に自分の自信作が通るよう手を尽くす。そしてアナのチェックを経て、最後にグレースいわく…「私の特集号みたいなものね」。
ラストはアナ自身が自らについて語る。グレースは天才よ、私のほうは…



アナのトレードマークはボブカットとサングラスに毛皮だけど、季節柄、また室内でのシーンが多いため、フェミニンですてきな洋服がたくさん見られて楽しかった。可愛らしいガマガエルのような顔も見飽きない。
9月号の表紙を飾ったシエナ・ミラーは、この映像内では魅力的に感じられなかった。やっぱり女優さんは映画の中が一番かな。


映画「プラダを着た悪魔」と通じるのは、アナが手にするスタバのカップと、グレースがデスクでとるサラダだけ?の食事くらい。アナがらみの映画なら、「プラダ〜」より、実際にちょこっとだけ出演してる「アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生」のほうがずっと好きだ。