マン・オン・ワイヤー



「それをしなければ、生きていかれなかったの
 あのタワーは彼のためにあったんだから」



1974年の夏の朝、ワールド・トレード・センターのツインタワー間を制した「マン・オン・ワイヤー=綱渡りの男」。映画はこのフィリップ・プティが、夢に出会ってそれを実現するまでを描く。


初めて予告編を観た時から、面白くないわけない!と思って楽しみにしてた。実際良かった。ああ東京にこんな人がいたらなあ!と(無責任にも)思ってしまった。


フィリップは「大道芸人」だそうだけど、そもそも「綱渡り」とはスポーツか、芸術か、奇術か…?それぞれの定義が分からないので考えられないけど、彼にとってはまず、自分の生きる姿勢を体現したものだった。いわく「いつだって、エッジを歩かなきゃ」。


もっとも映画自体からは、とことん「見世物」という印象を受けた。フィリップの「運命の日」をサスペンスフルに描きながら、合間合間に当時の映像や仲間のインタビューが挟み込まれる。大時代がかった再現映像、勿体ぶって登場する関係者(演奏しながら語り出す「音楽家」なんて笑える)、サービス満点の身振り手振りで昔を振り返るフィリップ本人。
(ちなみにオープニングは不意打ちといった感じで、始まって数分後、同行者に「もう本編始まってるのかな?」と耳打ちされた)
そして、驚くほど美しい写真の数々。仲間の誰かが撮ったんだろうけど、どれも素晴らしい。クライマックスが写真で構成されているのが、たまらなくいい。ジムノペディの旋律がかぶると、胸がしめつけられる。



物語はある終焉を迎える。彼と恋人アニーの関係も、他の幾つかのつきあいも、その時を境に消滅する。アニーは「彼の中で何かが終わり、次の段階に入った」と言う。仲間の一人によれば「それでよかったんだ、でかいことをしたからね」。なんてロマンチックなんだろうと思った。


印象に残ったのは、若き日のフィリップが初めてアニーの目の前で綱渡りをしてみせるシーン。「(ひっこみじあんの私・ア二ーに対し)初めて会った時から、とにかく彼は積極的だった」というようなナレーションが入り、原っぱに彼女や友人を呼んでの「公開練習」が始まる。なんていうか、こういう人なんだなあ、と思ってしまった(笑)


写真は、来日時にフィリップがサインしたポスター(色々写り込んでて観づらいけど…)。
ちなみにテアトルタイムズスクエアは、8月いっぱいで閉館するそう(リリース)。それなりに色々観た所だから寂しい。