アニエスの浜辺



「80のホウキ」を迎えた映画監督アニエス・ヴァルダが、自身の生涯を振り返る。


冒頭、浜辺に登場するアニエスは、ワインレッドのスカーフとコート。染めた髪も同じ色合い。潮風に激しくなびくスカーフを頭に巻き付け「こういう姿で映るのもいい」とふざける。彼女が惹かれるのは「動くもの」や「周囲の人」だ。


楽しいものって発想と行動力で作れるんだなあと感動した。しかもそれらがCGなどの技術でなく、リアルタイムでカメラの前に現れる面白さ!
アニエス自身が普段着で、あるいは衣装を身につけ、喋り、動き、過去を再現し、あるいは再現シーンの傍を通り抜ける。当時の写真や作品、撮影風景が、次から次へと「落穂拾い」さながらに画面を彩る。
パリの路地に砂浜を作り、製作会社のオフィスに見立てたシーンがとくに好きだ。「映画には資金の回収がつきもの…あるいは映画祭で賞を取るか」。砂にささった、「ドゥミと私がもらったトロフィー」の数々。



誰にも好きなもの…種類、イメージがある。アニエス「パズル」が好きだと言う。この作品においては、彼女の手によるジェラール・フィリップの分割された写真や、「今はもう見かけない」子ども用の地図パズル(私も好きだった!)などが例として登場する。また「映画なんて出来るの?断片しか撮ってないのに」と冗談めかして言われた彼女は、「映画はパズルのようなもの」と返す。
観ているうちに、この作品自体がパズルのようなものに感じられた(埋まっていくのが年代順だけども)。また、ある作家の全ての作品、あるいは世の諸々の作品が、全体でパズルのように何かを成すのではないかと思わせられた。


「モノクロでお金を掛けず」と頼まれた「5時から7時までのクレオ」(私が初めて観た彼女の作品。といっても他にあまり観てないけど)の撮影話あたりから、ちょっとした映画史を垣間見ることができる。名だたる映画人が出てくるのを見るだけで面白い。
ノミの市で、パートナーだった故ジャック・ドゥミと自分自身の「映画カード」を見つけるシーンには胸がつまった。「ジャック・ドゥミの少年期」の撮影中、彼の手を取りながらカメラに向かう写真も印象的。
アメリカを訪れたアニエスが、でかいパンケーキを手づかみで助監督によこした後、コーヒーに浸したナプキンで口をぬぐう姿に少々ぎょっとさせられ、晩年のドゥミが、カップのソーサーで猫にミルクをやる姿に頬がゆるんだ。


アニエスは「映画とは…」と語ることはしない(「映像に言葉が付いているだけではない」というようなことは言う)。「映画の内側の人」は、そんなことを語る必要がないのかもしれない、と思っていたら、ラストシーンで「映画の中に居る」彼女(観てのお楽しみ)が出てきたので、びっくりした。


(あんまり心を動かされたので、10分ほどで感想書いてしまった。後日何か付け足すかも…)


(「冬の旅」に主演したサンドリーヌ・ボネールが妹を撮った「彼女の名はサビーヌ」、迷った末行かなかったけど、観たくなった。12月にDVDが出るよう)

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