愛おしき隣人


日曜の夜、恵比寿ガーデンシネマにて観賞。明かりが点いたとたん同行者が「明日仕事に行くのがイヤじゃなくなった〜」と言っていた。
北欧のとある町に暮らす人々のあれこれを切り取ったスケッチ集。冒頭「生きているうちに楽しめ」というようなゲーテの文章が引用される。人生って、くだらないけど、わるくない。



固定されたカメラの中で、人が動いたり出たり入ったり、数分間のエピソードが繰り返される。箱庭をいくつも見ているようだ。誠実さとセンスの良さとを感じた。
建物も部屋も、人々の服装も、いずれも薄暗い。舞台の多くは室内だけど、住宅の中には「ドア」がなく、枠の向こうに廊下や奥の部屋があり、こちらで何やらしている誰かを、誰かが見ていたり見ていなかったりする。
背景がずっと同じなので、撮影時の様子を想像してしまった。例えばエレベータに乗れなかったおじさんがその横の階段を昇り始めると、反対側のドアが開いて青年がゴミを出す。どんなかんじでタイミングを計ってたのかな?などと思いを馳せた。


幾人かは、カメラに向かってネガティブなこと…悩みや嫌な体験について語る。中でも上記のエレベータに乗り損ねた精神科医の話す内容はストレートで面白い。
「こんな夢をみた」と始まる話が二つ、効果的に挿入される。おじさんが観た「テーブルクロス引きに失敗して死刑になる話」と、少女が観た「あこがれのロックスターと結婚する話」。前者には爆笑してしまった。見ているこちらは「失敗する」と分かっているから余計可笑しい。後者は、まず彼の所属するロックバンドの名前が「ブラック・デヴィルス」なのが、ギャグだとしても、いかにも北欧(笑)
正装してギターを抱えた少年と、少女。窓から見える小さな明かりがひとつふたつと流れ始め、やがて風景が飛び、部屋は、建物は列車になる(ドラえもんにこんな話があった)。駅に着くと群衆が祝う。窓から応える二人。この窓が大きすぎず小さすぎず、がんばって外に姿を見せる様子が愛らしく、とてもロマンチックなサイズに感じられた。


同じバーが何度か舞台となる。始めは戸口側から、中盤には店内からの映像で、雰囲気が異なるのが面白い。
店主は吊るした鐘を鳴らして「ラストオーダー」の旨を客に伝える。シンプルな道具と肉体とで、用を成すことができる。それはこの映画も同様だ。


北欧映画といえば、ラッセ・ハルストレムカウリスマキのように犬を大事にしてるイメージがあるけど、この映画の冒頭では邪険に扱われていたのが可笑しかった。



「何してるの?」
「ベランダに立ってるだけさ」
「何を考えてたの?」
「とくに何も」
「私のこと考えてなかったの?」
「今はべつに」
「いつもそうなんだから」
「そんなことない、いつもそうってわけじゃないさ」