彼方へ ザ・クライマー


運命を分けたザイル」に感動したので、この機会に「山の映画」を。
といっても私が思いつくのはヘルツォークの「彼方へ」とイーストウッドの「アイガー・サンクション」、以前書いた「ある遭難」くらい。とりあえずこの3つを順に紹介していきます。


一本目は91年のヴェルナー・ヘルツォーク作「彼方へ」。山登りが延々と続くわけではなく、山をめぐる男たちのドラマといったかんじですが、ラスト20分ほどの登山シーンはすごい迫力。
ロッククライミング選手権で優勝した若いマーティン(ステファン・グロヴァッツ)と、大会のゲストとして彼に渋いコメントをしたベテラン登山家のロッチャ(ヴィットリオ・メッゾジョルノ)。二人はスポーツ記者アイヴァン(ドナルド・サザーランド)の提案で、パタゴニアにそびえる前人未到のセロトーレ山にやってきた。だがロッチャは以前の失敗から慎重になり、なかなか行動を起こさない。しびれを切らしたマーティンは彼の留守をねらって山に向かい、相棒を雪崩で失いながらも山頂に到達したと主張。ロッチャは黙って姿を消す。
しかし山岳界ではマーティンの登頂を疑う声もあり、アイヴァンの指揮によりテレビカメラの監視のもとに再登山が行われることとなる。ヘリコプターが舞う中、山のふもとに一人留まっていたロッチャは、マーティンとは反対側から頂上を目指す。



原題は、副題の「ザ・クライマー」ではなく「Scream of Stone」。ロッティが出会う「指のない男」…メイ・ウェストのために山に登った男が、セロトーレ山について、「岩が「来るな」と叫んでるのさ」と言う。
冒頭、ふもとでキャンプしてる場面では、山男でもないのにやって来ている、ぺらぺらの黒コート着たサザーランド(遭難者を探しに行こうとするロッチャに「そんな馬鹿げたレインコートなんか着て!」と怒鳴られる)や、朝っぱらからキッチリした髪に化粧で炊事する女性(マチルダ・メイ)がジャマだなあ…と思ってしまうのですが、話が進むと、その他にもいろんな人が出てきて、結構面白い。デブッたテレビ番組のプロデューサーは「この番組が成功したら(富と名声が手に入り)もう山なんて登らなくても生活できますよ」なんていう。秘書は金髪で「ボディコン」着てるし…すごい対比。
サザーランドのぼそぼそしたナレーションもあって辛気臭い雰囲気ですが、何度か観るとなんとなく可笑しく思えてくる。


パッと見、この話は、中年男と若者の対立だ。根っからの山男であるロッティは、「このままでは登山がたんなるスポーツになってしまう」と頭を抱える。またマーティンの登頂(主張)を公の場で糾弾するのも、熟練した(もしくは引退した)山の男たちという風貌である。それに対し、近代的な部屋にトレーニング用のでこぼこ(名前が分からない…)を備え付けてちょいちょい練習するマーティンは、いかにもあっけらかんとした若者。
クライマックスの登山シーンは、マーティンが南側の岩肌から、ロッティが北側の雪面から、それぞれ頂上を目指します。吹雪がすごくて、場所の問題はともかく、あんな天候の中撮影を強行するなんて、さすがヘルツォークというかんじ…
ラストシーンは山の頂と二人の男をとらえた壮大なカットで、アンドレ・カイヤットの「眼には眼を」(大好きな映画!山じゃなく砂漠だけど)をちょっと思い出す。