マクファーランド 栄光への疾走


ニュージーランド出身のニキ・カーロ監督、カリフォルニア出身のケビン・コスナー主演による、カリフォルニア州マクファーランドが舞台の2015年作(…がなぜか今頃リリース)。実話を元に制作。コスナー演じる「崖っぷち」の教師が、新たに赴任したヒスパニック系の高校でクロスカントリー陸上競技)部を設立し皆で州大会を目指す。



アメフト社会をいわば締め出されたジム・ホワイト(コスナー)は、引っ越し先へと家族を乗せた車のハンドルを握る。「白人地域」のベイカーズフィールドでなくマクファーランドへに向かう道すがらの光景に娘は「道を間違えてない?」と言うが、間違いじゃなかったという話である。そこには妻シェリル(マリア・ベロ)の力も大きく働いている。


ジムは部員を乗せたスクールバスのハンドルも握る。初めての試合に負けた帰り、勝てなかったのは他の選手達がやっていることをやってこなかったからなのだ、それは指導者の俺の責任なのだ、自分を責めるな、と語る大人としての姿勢のまっとうさ。そこに入れてもらっていないからそこに居ないだけ、ということはよくある。


体育の授業ではグラウンドを、部活では近所の道を、ただ走れというジムの指示に生徒が黙々と従うのに違和感を覚えていたら、「アーモンドの殻の丘」を走り下りたトーマスが言うには「(朝晩に畑で働いている)俺達は単純作業に慣れてるからこんなの何でもない」。彼らは「使い捨て」されていることを自覚している。アメフト部でも「使い捨て」されていたトーマスを赴任早々に救うジムには、命への思いがある。生命科学の教師であることも関係しているのだろうか。人間は誰でも、あるいは鶏だって、粗末にされちゃならない。


彼らは走るのが好きでもある。マクファーランドの町の、畑の、少年達が走る姿の美しいこと。今までとは異なる類の「必死」のみなぎる表情の素晴らしいこと。そしてチーム・クーガーズに付いて走る町の子ども達、大人達、車の群れ、降られる旗、あれらは「ペンタゴン・ペーパーズ」でグラハムを見送る、迎える女達の姿に似ている。ジムは州大会の開会式で流れる「星条旗よ永遠なれ」を聞きながらこれまでを思い起こし、「アメリカとは、彼ら移民こそがそうなのだ」と改めて思う。


当初、引っ越すべきだとの意見を妻に諭されたジムは庭を整える。伸びるのに5年掛かる苗木は買わなくとも腰を落ち着ける覚悟をする。トレーニングで自分も走ってみた彼は、「使い捨て」の畑の作業員として働いてみることさえする。シンプルなやり方だけど、そこにおそらく、他者への新たな尊敬の念が生まれる。では自分で体験できないことについてはどうするか?トーマスの「あなたには分からないだろうけど」に対する「分かるように説明してくれ」は、いつか適切な時に使いたい言葉だ。