ロスト・イン・パリ



とってもよかった、楽しかった。エンディング、二人からゆっくりと遠ざかる船からのカメラに、見たばかりだから、「天使の入江」のオープニングの「才気に走らない」バージョンだと思った(笑)


冒頭、ザックを背負ったフィオナ(フィオナ・ゴードン)が仲間に背中を押されたところで場面変わってパリになるのに、「背中を押す」という日本語の意味の中心がぴたりとはまって面白く思う。この映画から新しい慣用句が作れそうだ、「ザックを背負って水を飲む(うまくいかないこと)」とかね(センスがないから上手く抜き出せない)。言葉といえば、ドム(ドミニク・アベル)が「(ダンスの腕前は)錆びついてるけどね」が通じないと見るや、油をさされていないブリキの木こりのような動きをするのがよかった。


「ゴミ箱で拾いました」という手紙から話が始まるのが、「ゴミ箱」が象徴するものから、作り物感の素敵な「手紙」そのもの的にもお話的にも魅力的。これは人やものがめまぐるしくテンポよくどんどん移動していって(それこそ自分で動けないボトルはセーヌ川の流れにのって)、クライマックスにはエッフェル塔のてっぺんにまで着いちゃう話なんである。人物ごとに章立てされ徐々に「あったこと」が明かされるのにも面白さを感じるけど、それがメインじゃない、もっと地に足ついた楽しさに満ちている。


「はじめまして」と「おひさしぶり」とそれからもうちょっと違うダンスの、どれもが素晴らしい。エマニュエ・リヴァとピエール・リシャールのベンチでの踊り(足が宙に浮く場面のわくわく感たるや!)には、NHKの「みんなの体操」の、やれない人は座ってやりましょうの方を思い出した。私はあの座位のやつがなぜか好きで、見ると目が離せない。


彼らの映画を見ていると、無性に体を動かしたくなる。「見る」ためのものなのに私ときたらおこがましいやつだ。マーサおばさんに会ったフィオナが「覚えてる?」とやってみせる指の動きなら…なんて劇場の暗がりで試してみそうになる(動きが小さくたってあんなふうには出来ないだろう・笑)。えーっいい男ってあなた?と言われたドムがタバコに火をつけてフィオナに迫る、私がドムならあそこでどんなことをして見せるだろう?「いい女」を表現するのに、髪はもうショートヘアだからかきあげられないし…なんてことも考えた。