ルビー・スパークス



面白かった、最後泣いてしまった。人間は「奇跡」に遭えば堕ちていく、でも脱出して、今度は「チャンス」にめぐり合う、そんな話だと思った。


オープニング、カルヴィン(ポール・ダノ)の夢に登場する「ルビー」(ゾーイ・カザン)は逆光で顔が見えない。次回初めて容姿がはっきりすると、そこには顎や脇のたるみがある。カルヴィンとの「デート」で「私はあなたの本に出てくる?」なんて能天気に口にする女の子と、同じと言えば同じだ(ちなみに終盤、小説の事を知ったルビーの態度は、これと相対してると思った。ああいう感情を持つことがカルヴィンの望みなのかなと)。
それじゃあ何が違うかのというと、その「過去」だ。ルビーはカルヴィンの作り出した架空の「過去」で出来ている。人間とは自分の「過去」を持つものだから、それは「人間」じゃない。しかし、以降の「過去」を積み重ねることで「人間」になってゆく。そんな彼女に悩まされたカルヴィンは「未来」までコントロールしようとし、収拾が付かなくなっていく。そして最後には、自らをルビーの「過去」とし、とある文章を打つ。加えて、もう会えないであろう相手に、それでも告げたくて書き留める、もしかしたら初めての「I love you」。これには涙がこぼれた。


冒頭、目覚めたカルヴィンがコーヒーとトーストの朝食を用意し「朝から」タイプライターに向かう様子は、どこかオールドファッションで「借り物」めいている。わざとらしく感じ、しばらく馴染めなかったけど、「奇跡」が起こるあたりから入り込めた。光の具合などから、いわゆるホラーやファンタジーの撮り方のように思われたし、内容含めてそう受け止めた。始め不自然にも思われた「タイプライター」が、最後の最後に、この場面のために必要だったのかと分かる。文字と読点の滲みは、私の涙のせいじゃないよね?
終盤、ルビーが「消失」したかに見える場面など、うまく言えないけど、手作り感があって面白い。室内の階段を使ったベタな表現(疲れ切った夜にはぴょこぴょこ、アイデアが浮かんだ朝には一段飛ばしなど)も合っていた。


カルヴィンにとって大きな存在なのが、背をしゃんと伸ばして彼の原稿を読み「これは人間じゃない、『女の子』だ」と忠告する兄のハリー(クリス・メッシーナ)。女性が横にいても(ヘッドフォンをしてるからと)寝た、寝ないという話題をし、弟に妻についてのグチをこぼす。決して「理想」とされるような男じゃないけど、彼なりの誠実さが伝わってくるし、生きてるって感じがする。私としては、死んでるかのようなルビーに対する存在に思われた。簡単に言うと「一貫性」の有無ってことかな。
もう一人作中で「意味」を持つのが、スティーヴ・クーガン演じるベテラン作家のラングトン。どこか作り物っぽい世界において妙に地に足着いてる感じで登場し、終盤忘れた頃にまた現れ、カルヴィンが「現実」と対面する切っ掛けを作るのだった。


ところで、カルヴィンが作ったルビーの「過去」において、初恋の人があの頃のジョン・レノンというのは、「(相対的に)ちょっと年いった俺」ってことだよね(笑)