すべての若き野郎ども モット・ザ・フープル



最高だった!あの曲もこの曲も、止まってる時のものはない、動いてる時のものなんだなと思った。


私がモット・ザ・フープルのファンだから面白いというのもあるけど、メンバーや関係者の証言、当時の写真(新聞の見出しも上手く使われている)、映像でもって歴史を追っていくオーソドックスな作りはなかなかよかった。終盤、「真実」は人が語る分だけあるということを思う。また、個々の人間やその関係と集団とは違う、「バンド」はまるで生き物みたいなものだなとも思う。ラストにイアン・ハンターの印象的な言葉の後、次々映し出される写真には泣かされた。
本作は「ザ・イギリス!」という映像で始まる。だからというわけじゃないけど、偏見だけど、物語は「ハッピー」なことばかりじゃない…決して「ハッピー」じゃないのに、全篇が「イギリスらしい」(「彼らは『ロンドン』から来たんじゃない、田舎出の普通の若者さ」)ユーモアにも満ちており、観ながら何度か笑ってしまった。


モット・ザ・フープル」はプロデューサーのガイ・スティーヴンスが麻薬所持で獄中に居た時に生まれた。彼によるアイランド・レコード時代のことは全く知らないので興味深く観た。
ガイの言葉が幾つか、黒地に白文字でスクリーンに映し出される。「やつらはオルガンをかついで階段を上ってきたんだ、そのパワーを見込んだのさ」「俺はモット・ザ・フープルを乗り越えられなかった、イアンとの仕事を忘れられなかった」。ライブは一定の盛り上がりを見せるもレコードは売れず、メンバーは解散を考える。


ボウイが提供した「すべての若き野郎ども」…ここからの流れは大まかには知っていた。イアンいわく「デヴィッドは中身が濃くて売れる曲の作り方を教えてくれた」「分かったんだ、ストーンズは昔からやってたことなのにね」。関係者によれば「ボウイは他のミュージシャンとの仕事で地位を築いてきたんだから、モット・ザ・フープルとは持ちつもたれつ」。ボウイとそのマネージャーとのあれこれは、言葉には出してるけどはっきりとは言ってない、という感じ(笑)
そして訪れる「黄金時代」、その内実はメンバーの脱退と加入の繰り返し。作中最後に、結成時からの波乱万丈を見届けてきた、現在ではただの爺さん然としたドラマーのデイル・グリフィンが「今でも入りたいバンドはモット・ザ・フープルだけ」と言うのにじんとした。


「アリエル・ベンダー」とは「アンテナ曲げ男」という意味だってこと、モーガン・フィッシャーの衣装はリベラーチェを意識してたってこと、イアンがミック・ラルフスの作る曲を「ブルージーだから気持ちが込められない」と却下してたこと…等々、初めて知った。ちなみに「グラムロック」という観点からのくだりで「彼らはグラマラスじゃなかったよ、女装した職人という感じで…」とのコメントに、おおやちきの絵を見るとモットぽいと思う理由が分かった(笑・きらびやかだけどヒゲもあってごつい)


イアン・ハンターのこと、もともと大好きだけど、本作を観て、その「普通」ぶりに余計好きになった。朝八時から日記を書いてたロックスター。インタビューに答えるアップの映像に、ずっと後追いで「ロック史」にも疎い自分と彼との間に初めてちょっとしたつながりが生まれたような気がして、色の薄いサングラスの向こうの瞳の動きに目を凝らしてしまった。額のケガは何だったんだろう?(笑)


「ファン」の肩書きで喋りまくるミック・ジョーンズや、フレディ・マーキュリーの卓球話など、周辺人物についても見どころいっぱい。ほぼ「内側」からの証言で構成されている中、ロジャー・テイラーの「彼らのステージ上での動きや照明の使い方は勉強になった」などのシンプルなコメントが意外と効いていた。ロックというか音楽って、そうして繋がって、死ぬことは無いんだなって。