第九軍団のワシ



ローマ帝国ハドリアヌスの時代。アクイラ将軍率いる第九軍団は、侵攻先のカレドニアで軍の象徴「黄金のワシ」と共に姿を消した。それから20年、アクイラの息子マーカス(チャニング・テイタム)は、「黄金のワシ」が北方にあるとの噂を耳にし、父の名誉を回復するために旅立つ。


これは面白かった!感動というより、面白さのツボをがんがん押される感じ。
構成が複雑な映画だと、私なんて冒頭数十分ぼーっとしてることもあるけど、本作はまず分かりやすいのが嬉しい。開始数分で、主人公が何者で何をしているか分かる。チャニング・テイタムの紐パン姿を経て早速、私の大好きな、銃の無かった時代の戦闘の醍醐味が味わえる。木を削って作った砦の仕掛け。盾で固めて前進するローマ兵の塊に、部族軍が駆け上がってくる。馬車の横に付けられたナイフを大写しにするカットもベタながら燃える。


話の内容を知らなかったので、主人公が重傷を負い戦場から退くのに少々驚いた。名誉の除隊となり落ち込むマーカスは、試合見物でブリタニア人の奴隷戦士エスカ(ジェイミー・ベル)の命を救う。かつてローマ軍に家族を殺された彼だがマーカスに忠義を誓う。そして「黄金のワシ」の噂を耳にしたマーカスは、現地語を話せるエスカを連れ、ローマ人にとって「この世の果て」(ハドリアヌスの長城)の向こうへと旅立つ。
「父の名誉」も何も先住民を侵略しに行ったくせに、ローマ人は威張っちゃってさあ!なんて思ってしまうけど、マーカスがエスカを「きちんと奴隷扱い」する描写などが「時代」の下地を作ってくれるので、話に入り込めた。こうした部分には「アレクサンドリア」(感想)を思い出した。


「この世の果て」より向こうはブリタニア人のもの。二人で居る時は「主人と奴隷」であっても、第三者の前では変化せざるを得ない。よって「ミケランジェロの暗号」(感想)を彷彿とさせる…違うといえば違うんだけど、ああいう展開となる。ここでは出会いの場面から発揮されていたエスカの度胸の良さや、演じるジェイミーの「何を考えてるか分からない」顔付きが活かされる。一方のチャニングは、ほぼずっと眉間にしわを寄せたまま。ちなみにウィキペディアの本作のページによると「アメリカ人がローマ人、イギリス人がイギリス人を演じているのは、イギリス人がローマ人を演じるハリウッドの因習の裏返しで、アメリカが世界の覇権を握る現代を象徴する狙いがある」んだそう。使用言語についての記述が面白い。


真面目一本槍の映画なんだけど、ラストシーンだけ突然バディものみたいになるので驚いた。はじける笑顔の二人が闊歩するローマ軍基地は警察署に見えた。「お次は何をする?」って、ほんとに何するんだよ!と思ってしまう(笑)


(以下、ネタバレ含む色々)


チャニング・テイタムの登場シーン、馬上の二の腕がまぶしい。
・冒頭のローマ兵たちの足元のカットに、あんな靴じゃ重いもの落としたら大変だよなあと思う。最後まで衣装が見ごたえあった。
・出撃前に戦士の一人がゲロを吐く際、内容が見えないのがいい。メインキャストじゃないから(「背景」だから)映さないのかもしれない。でも最近ゲロといえば全見せだから新鮮。
・ゲロに限らず、首刎ねや手術などの「残酷」シーンは全て、実行寸前で場面が替わる。その割には切断された首の断面などは見せてくれる(笑)
・原作通りなんだろうけど、激戦中の兵士は小便垂れ流しということにセリフで触れられるのがよかった。いつも気になってたから。
・取り戻した「黄金のワシ」を掲げるマーカスのもとへ、エスカが「第九軍団」を引き連れて戻ってくるが、当然ながら爺さんばかり。大丈夫なの?と思うも、勿論それがいい。
・この場面では「最後の忠臣蔵」を思い出してしまった。あの映画じゃ、親の家来がなんで子どもに仕えるの?何かしたわけじゃないのに、と思ったけど(そういうものなんだろうけど!)、本作はちゃんと「何か」してるからいい。