ハートブレイカー




「お嬢様が不良に憧れるんだろ、分かるよ」
「分かってないわ、スウェイジの野性的なところがいいのよ」


ロマン・デュリスヴァネッサ・パラディによるラブコメ。いわゆる古き良き「映画」の引用やアメリカ的な作りの根っこに、フランスの心が流れてるという感じ。何てこと無いんだけど、とても気持ちに沿う映画で、満ち足りた気分になった。


デュリス演じるアレックスの職業は「別れさせ屋」。オープニングはこの手の「仕事人」映画につきものの、主人公の凄腕ぶりを示す一幕なんだけど、「手練手管」の描写がしょぼい上にだらだら長い。以降、全篇に渡ってシマリがないんだけど、それが何だか心地いい。デュリスの(役作りによる)間抜け顔に合ってるからかな?彼の出演作はここ数年ずっと観てきたけど、これほどのコメディは初めて。コスプレに「日本語」、中盤には立ちション姿も見られる。


パラディ演じるジュリエットの「弱味」は「ダーティ・ダンシング」(とジョージ・マイケル)。「30歳のフランス女」には不似合いな気もするけど(そもそもパラディなんだからもっと年上の設定でいいと思うんだけど)、「プラダを着た悪魔」(原作)じゃ2000年代初頭に大学出たばかりの主人公が夢中なんだから、欧米じゃ「定番」なのかな。ちなみに私にとっても、映画を好きになった切っ掛けの一本だ。
予告編でもちらっと映るけど、作中デュリスは「ダーティ〜」のDVDを観ながら踊りの練習をする。終盤、彼がスウェイジのダンスを始めた瞬間、今年の「劇場で最も体温上昇した場面」の一位が、「『イップ・マン』でサモハンがテーブルに飛び乗った瞬間」からこちらに変わった。


本作における「ダーティ・ダンシング」の意義は、ダンスだけじゃない。例えば冒頭に挙げたセリフ。アレックスが「休火山」と見抜いた通り、ジュリエットはもともと「激しい」性分なんだけど、学生時代のある出来事により自分を抑制して生きている。つまり、彼女が「ダーティ〜」のスウェイジを好きな理由は「異世界への憧れ」ではなく、単に「野性味があるから」なのだ。
加えて「君とは住む世界が違う」「全てを捨てるわ」という会話。「ダーティ・ダンシング」の舞台は60年代初頭、ラストに山荘の支配人が口にするように「ある時代」が終わろうとしていた頃。しかし身分の違いは厳然としており、若い二人は苦労を重ねる。一方本作で、ジュリエットの父親は娘に対し「お前は素直で仕事のできる素晴らしい女性だ」と言う。「現代」の「大人」であれば、いや女に仕事、お金、あるいは気持ちさえあれば、どんな相手とでも一緒になれるのだ。まあかなり今更、だけども。


面白いのが、ジュリエットの父親がアレックスに仕事を依頼した理由。疑いを口にするアレックスの姉同様、「具体的」な何かがあるのかと思いきや、「あの男はいいやつだが、お前の人生、退屈になるぞ」ってだけ(笑)娘の本質を見抜き、よかれと思う方向に伸ばそうとしていたわけだ。ただ、婚約者に対し、訳も告げずに去るのはよくないなと思った。
ジュリエットの女友達の存在もいい。ホテルに押しかけてきて、迷惑を掛けるばかりで特に何をするわけでもないんだけど、ジュリエットは「いてくれてありがとう」と抱きつく。偏見だけど、こういうのがフランスぽいなと思った(笑)


同居人いわく「『黄金の七人』ぽいところが楽しかった」。確かにアレックスと姉、その夫の3人によるチームプレイも見もの。姉夫婦のバーでの(他人同士のふりをした)やりとり「浮気をする気かい?」「ないわ、でもあなたとならいいかも」「…オレは傷ついたぞ!」「何言ってるの」なんてのも可笑しい(文字にしてもよく分からないな・笑)
姉役について「ミックマックで冷蔵庫に入ってた人みたい」とも言うので調べたら、その通り同一人物だった!なんでそんなに覚えてられるのか驚き。ジュリー・フェリエという女優さんで「さすらいの女神たち」「PARIS」にも出てるそう。どちらも観たのに覚えてない…