マーラー 君に捧げるアダージョ


パーシー・アドロン(とその息子)の新作を劇場で観るなんて、なんだか感慨ぶかい。昔は「流行ってた」こともあり、ビデオ屋で全作借りて観たものだ。まぶしい光、がちゃがちゃした画面、セックスの軽み、などを懐かしく感じた。



冒頭「起こったことは事実、どのように起きたかは創作」との字幕。名声と人気を欲しいままにした作曲家グスタフ・マーラーと、その若き妻アルマの物語だ。
映画は、マーラーがアルマとの仲についてフロイトに「診療」してもらう合間に、夫婦のこれまでが(主に彼の回想により)描かれるという構成。挟み込まれる「周囲の者の証言」や、マーラーフロイトのやりとりが間抜けな感じを醸し出しており可笑しい。「夢は見ない」黒づくめのマーラー(終盤少し脱いでゆくけど)が、「あなたの音楽は聴いたことがない」白づくめのフロイトを呼び付け…ておきながら逃げ出そうとする。「またセックスのことを聞くのか?」って、後世からしたらそりゃ当たり前ってもんだ(笑)
原題は「Mahler auf der Couch」=寝椅子の上のマーラー。「SOMEWHERE」のポールダンサーのポールのように、フロイトは折り畳み式の寝椅子を持ち歩いている。


フロイトマーラーを診た夜、ノートに「嫉妬はああいうカップルに必要なもの、夫は妻を束縛することで愛を完成させる」などと書き付ける。
しかし最後に彼は「治療」として、マーラーに「自分の罪」を自覚させる。「答えはここ(自分の胸)にある、分かってるはずだ」。このくだりでは、先に一度聞いたアルマの言葉に続きがあることが分かり、ちょっとした推理ものの楽しさが味わえる。といっても始めから観てりゃ分かることだけど。「結局、彼にとって私は女なのよ」と母に嘆くアルマ。
私には、「ほんとうのアルマ」は最後まで姿を現さなかったように思われた。しかしマーラーが描き出して見せる彼女にこそ、その切実さが表れてるように感じられた。


アルマ役の女優さんは、カトリーヌ・フロが乳牛になったような感じ。彼女のマーラー以外とのセックス、というかいちゃつきシーンはどれも楽しそうで、観ていて満足できた。とくにピアノの下での一場面がいい。