運命のボタン


リチャード・マシスンの原作をふくらませにふくらませたこの作品は、映画として一つの「正解」だと思う。大画面ですがすがしいハッタリを観るのは楽しい。ジェームズ・マースデンがあそこを抜けるシーンなんて、今どきかなりチープな描写なんだけど、気持ちよくさえなってしまった。



1976年、アメリカのヴァージニア州。ノーマ(キャメロン・ディアス)とアーサー(ジェームズ・マースデン)の夫婦が一人息子と暮らす家に、「箱」(原題「The Box」)を持った男(フランク・ランジェラ)が現れる。いわく「箱の中のボタンを押せば100万ドルが手に入るが、代わりに知らない誰かが死ぬ」…


「The Box」にまつわるスジの通った話ではない。教員であるキャメロン・ディアスが「欠損している」足を生徒に見せる冒頭から、恐怖映画っぽい音楽に合わせ、思わせぶりで「奇妙」なものが次々と提示される。美少年、ぼけた写真、サイン、シンメトリー、整列、蛍光灯の灯り…70年代という舞台が活きている。
観ているこちらの、「自分(主人公)たち以外の誰もが怪しい」という不安は、最後には、身をゆだねてみたいという不思議な気持ちへと変わる。終盤、涙を流してフランク・ランジェラにある「愛」を告げるキャメロンや、アレの中に飛びこんでゆくジェームズの姿も、すんなり受け入れられる。


とはいえ私が観ていて楽しめた理由の大方は、夫役のジェームズ・マースデンがこれまでになく可愛かったから。薄給の身で派手なクルマに乗りながら「お金がないと幸せになれないのかい?」なんて聞いてくる、職場で妻への贈り物をせっせと作っている、無邪気で思いやりのある男。白シャツが似合う。
キャメロン・ディアス演じる妻は、弱音ひとつ吐かず頑張ってきたけど、本当は今と違う暮らしを望んでいる。長身にまとうコートやスカーフ、厚ぼったい質感のスリップなどの70年代ファッションが見もの。
舞台が「1976年」だからなのか、現代の映画ではあまり見られない、素直に父親の言うことを聞く子どもの姿も新鮮だった。