愛を読むひと



「感情じゃなく、どういう行動を取るかが問題なんだ」


そして男は、ある強い感情に囚われながら、幾つかの行動を選択し、実行する。



58年のドイツ。15歳のマイケル(デヴィッド・クロス)は、学校帰りに気分が悪くなった所を年上のハンナ(ケイト・ウィンスレット)に助けられ、毎日セックスするようになる。ハンナは事の前に彼に本を読むよう頼んだ。そして8年後、法科の学生となったマイケルは、突然姿を消した彼女が、ナチの戦犯として裁かれるのを見る。


途中まで、雰囲気はいいけど、つかみどころのない映画だなあと感じてたのが、上記のセリフが出てきて、こういう話なのか、と思った時点で面白くなった。しかもここ数年で久々ってくらい、劇場で大泣きしてしまった。でもって初めて、邦題に少し腹が立った(原題はたんに「The Reader」)。


冬。雨が降っている。厚ぼったい服で傘もなければ、身体は重くなる。嘔吐。二人が出会い、雨は雪に替わる。冒頭のこの描写がとても素敵だ。終盤に二人の距離が近づいた時、またしても雪が散らついたのは、センチメンタルすぎてびっくりしたけど(笑)
ハンナの住む建物や部屋がいい。階段の裏や室外の壁に描いてある模様が可愛い。ドアを開けると、すぐお風呂。厳しそうな両親と暮らすマイケルの家と違い、目一杯ごたごたしている。魅力的だけど温かさのない、乱雑さだ。彼女が去った後の、空っぽの部屋も印象的で、ベタだけど「ラストタンゴ・イン・パリ」のように使いたいと思わせられた。
時が経ち、大学生になったマイケルは、結構スマートになっている。女の子が惹かれるのも分かる。皆がにぎやかに暮らす寮の様子。階段教室の生徒たちは、煙草を吸ったり、机に腰かけたりしながら授業を受ける。


最初に挙げたセリフさながら、この映画では、観ている私に「見える」のは登場人物の言動のみで、彼等が何を考えているのか分からない。推測を拒否される心地良さのようなものを感じた。他の映画と何が違うんだろう?技術的なことが分からないので、説明できないけど。
裁判を傍聴した後、一人でアウシュヴィッツの収容所を訪ねたマイケルは、何を思ったろう?自分が執着するものは「正しい」ものだ。


(そういえば、普通の市民から「ナチ」になった者が、戦争犯罪の裁判において責任をなすりつけ合うシーンって、他の映画で観た記憶がない。何かあったかな?)


レイフ・ファインズについては、最初、あの子がこんなになるわけないだろう!(映画の順に沿って言うなら、レイフ・ファインズがあんな子だったわけないだろう!)と思ってたのが、話が進むと、感傷にふけってるうちにあんな甘い顔になってしまったのかもしれない、と思えてきた(笑)
それから、ブルーノ・ガンツレナ・オリン。見ると嬉しくなっちゃうような役者さんが出ている。



カタルシスを味わいたいなら、収容所のことは忘れて
 何も生み出さないところよ」