007 ノー・タイム・トゥ・ダイ


(簡単な記録。「ネタバレ」に近いものあり)

「母親と娘」に始まり「母親と娘」に終わるこの物語はマドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)が主人公にも見えたっていいのに、ジェームズ・ボンドダニエル・クレイグ)が出張ってくるから(当たり前だけど!)そう見えない。前作では父親の娘だった彼女は今作では恋人の子の母親であった(思えば「女王陛下の007」でボンドが結婚するのも、とある父親から渡された娘であった)。「世界規模の戦争を防ぐ」とはM(レイフ・ファインズ)のセリフだったか、諜報員が闘う所以の世界とはああいう「母親と娘」のことなのだ、でも身近な「母親と娘」をお前はどうしているか、という男性スパイもの…いや多くの男性につきまとうお決まりの矛盾。でも矛盾とか言っても総合的には「かっこいい」のが売りなわけでしょ?ということへのダニエル・クレイグの答えを見た。まあそれしかないと言えよう。

アヴァンタイトルで「次の行き先を教えてくれ」に「家」と答えたスワンはブロフェルド(クリストフ・ヴァルツ)との一件の後にそこしかなくなったのであろう、「家」へ帰る。今作では初めてQ(ベン・ウィショー)の自宅が出てくるし、そこへボンドを連れて行ったマネーペニー(ナオミ・ハリス)のハンドバッグも目立って帰る住まいがあることを意識させる。対して今や住居のないボンドの家とはどこだろう、少なくとも見ている私にはロンドンに戻りオフィスに向かう時にのみその言葉が浮かんだ。

新人エージェントのパロマ(アナ・デ・アルマス)の去り際のセリフは私には観客に向けた、これは作り物なんだという洒落であり、このシリーズの限界を示唆しているものに思われた(フィービー・ウォーラー=ブリッジが書いたのはこのあたり?)。それにしてもノーミ(ラシャーナ・リンチ)に向かってオブルチェフ(デヴィッド・デンシック)に「お前らの民族を全滅させることができる」なんてことを言わせたのはなぜだろう?「白人男性」が現場仕事をするのと彼女とがするのとでは全然意味が違うということが際立ってしまうじゃないか。そもそも彼女が元より仕事しづらそうだったのが心に残った。