世界最速のインディアン


どんな映画だか知らなかったので、劇場に展示してある撮影用「20年型インディアン・スカウト・マンロースペシャル」に驚いた。写真を撮ってもらった。


観終わったあと原作「バート・マンロー スピードの神に恋した男」を買ってもらう。表紙がよかったから。

バート・マンロー スピードの神に恋した男

バート・マンロー スピードの神に恋した男


60年代、ニュージーランドのちいさな町。60を超えたバートは、「20年型インディアン・スカウト」と暮らしていた。日々マシンの改造を続ける彼の夢は、アメリカ・ボンヌヴィルの塩平原で開催される公式大会に出場し、スピードの世界記録にチャレンジすること。細々と年金を貯めていたが、心臓発作を機に、一路アメリカへ向かう。



爺さんがバイクに乗って飛ばす。しかも、門外漢の私の目には初めての、あんな流線型のマシンに、うつぶせみたいに、ぎゅうぎゅう詰めで乗り込んで。それだけで楽しい。
とはいえ、疾走シーンは、冒頭にちょこっと、最後にどかんとあるのみで、あとはロードムービー。多くの人がバートと触れ合って、通り過ぎていく。ここまで「いい人」しか出てこない映画は初めて、というほど「いい人」だらけだけど、わざとらしくてマイナスに感じられるということはなく、面白かった。
旅の途中での、未亡人のおばさんとの一夜が良かった。白いシャツの下に、年月を経た身体。「見せたいものがあるの」…私はその時点でもう、ベッドに連れてくのかと思った(笑・いちおうもう一段階ある)


バートは、40余年改造を続けた愛車を、ロスで買ったぼろいクルマにくっつけて、ボンヌヴィルまで引っ張って行く。ハダカで大丈夫?と思ってると、案の定、バイクのタイヤが外れてひっくり返る。あれだけ執念かけてるのに、今の時代の、私の目からすると、扱いがぞんざいなのが可笑しい。
旅のはじめの頃は、「ストレイト・ストーリー」の冒頭、トラクターで町を発ったものの故障ですぐ戻ってくるシーンを思い出し、いつ引き返すんだろういつ引き返すんだろう、と思ってたけど、トントン拍子に事が進んで、ちゃんと大会に出場できる。
インディアンは、皆に押してもらわなければ出発できないけど、走り出したら止まらない。「記録更新」が目的だから、見渡すかぎりの平原の上には、比べるものもない、インディアンだけだ。


「夢を追わない人間はキャベツだ」…言葉は、状況と一緒になって始めて意味をもつから、夢を追わない人間が皆「キャベツ」だなんて、私は思わない。大体、不眠症の自分にとっては、早朝からあんなに騒音たてるバートは、もしご近所さんだったら、訴えたくなるほどの迷惑人間だ(笑)でも映画においてバートがこう言うのは、いいシーンだ。


現地でバートを助けるジム役のクリストファー・ローフォードという人は、本当のレーサーかと思ったけど、いま検索してみたら俳優さんでした。それにしてもレーサー顔だ。