モンタナの目撃者


監視塔でハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)が少年に「あなたは信頼できる?」と問われた時、逡巡するのかと思いきや、彼女はこちらを、「幸せへのまわり道」のトム・ハンクスほどじゃないけど見据えて「私は間違いなく信頼できる」と答える。あの目に映画の神髄があったかな。

「主人公は荒くれ者の中の荒くれ者だが責任感の強さゆえトラウマ体験に悩まされている」という一億回は見て来たような冒頭。しかしその主人公は「女」である。そのため「セックスはどうしているのか」(「おれとやらないか」「野糞してるところを見たことのある男とはやらない」「おれも同じだ」「『男とはしない』?」この最後の返しが一捻り)「なぜ一目置かれているのか」(ペタンク的な遊びに片手間で参加するもその業がすごい)などの描写でもって彼女がそこに居られるのには要因がある、それは彼女に依る、と言っているんだけれど、問題は男の方にあるんだからおかしな話だ。あんなもの不要だしそのエクスキューズのせいで映画がもたもたしていた。

(以下「ネタバレ」しています)

…ということに引っ掛かった点を除けば面白い映画だった。舞台は保安官イーサン(ジョン・バーンサル)いわく「(「塔に銃はあるか」と聞かれて)モンタナの山の中なんだからあるかも」、すなわち死に直面する可能性のある土地。そこへ「正しいことをした」一人の男性(ジェイク・ウェバー)が決してそれを後悔することなく息子と共に逃げてくる、それを組織が「金をけちって」一組だけ送った殺し屋ジャック(エイダン・ギレン)とパトリック(ニコラス・ホルト)が追ってくる。このことにより当地の幾人かが死の可能性に巻き込まれるが、それぞれ咄嗟にきっちり判断して自身を生き抜く。一方よそ者のジャックなどはもうどうでもよくなって死んでいく。

そういえば、同じく森林火災初動部隊が舞台の「ファイティング・with・ファイア」(2019)では、ジョン・シナ演じる消防士が救助した子らを養子にすることでよくない男性性を脱ぎ捨てたことを表していたものだ。本作の場合は主人公が女性なので、せっかく少し平らになった世界がまた傾いてしまわないよう、助けた少年を引き取るという単純な結末ではなく「一緒に考えよう」となるわけだ。妊婦のアリソン(メディナ・センゴア)が鹿撃ち銃を取って自分と夫を狙った相手を殺しに出向く姿には、「白頭山大噴火」のお決まりの妊婦描写(臨月である点も含めて)にがっかりしていたところなのでせいせいした。