パリに見出されたピアニスト


ピアノの単音がオーケストラとなり、パリ北駅のめまぐるしい雑踏の中、「ご自由に演奏を」ピアノでマチュー(ジュール・ベンシェトリ)がバッハの「プレリュードとフーガ ハ短調 BWV847」を弾いている、一瞬遅れてバッハの前奏曲だと気付く。遠くから見つめるピエール(ランベール・ウィルソン)いわく「君のバッハの解釈は斬新だ」。

エリザベス(クリスティン・スコット・トーマス)が「私たち三人は繋がっている」と言うけれど、キャラクターとしても役者としても三人あっての物語である(それ以上でも以下でもない)。ルブタンに合わせて赤い眼鏡、陽の差し込む真っ白な部屋でレッスンをするエリザベスと、同様に眼鏡を掛け、罠、いや餌でもって暗いスタジオへマチューを誘い込むピエール。

ピエールの仕事は「ディレクター」、エリザベスの仕事は「先生」である。ピエールが「ピアニストの自由は楽譜をきちんと解釈した後にある」と言えば、エリザベスが「楽譜には作曲者の全身全霊がこめられている」(から消化しないのは失礼なのだ)と教える、やらねばならない理由を伝えるのが教師の仕事だからね。

エリザベスが自身の1981年のコンクールの映像を見せながらいわく「失敗したのは感情が表れていないから」。この映画は自分の気持ちを認めてそれを適切に表すことは大切だ、大人になるとはそういうことだと言っている。確かにそれが演奏を成長させると私も思う。親への不満を溜め込んだままコンクールのことを黙っていてはだめだということだ。

主演のジュール・ベンシェトリの輝きがすごいと思いきや、予告では気付かなかったけれど「アスファルト」に出ていたトランティニャン家の彼だった。元より容貌が似ているのに加え「キングスマン」(=「マイ・フェア・レディ」)めいたところがあるのと007の真似をするシーンがあるのでタロンくんが頭をよぎった。