コレクター/殺しのナンバー


新宿ミラノ(シネマスクエアとうきゅう)で「ジョン・キューザック スペシャル」として連続上映された二作を観賞。どちらもすごく面白くはなかったけど、特に後者はジョンの魅力をたっぷり味わえた。



「コレクター」は80年代半ばにフィラデルフィアで起きた事件をもとに制作(映画の舞台は現代)。原題は「The Factory」、なぜこんな邦題にしたのか分からないけど、作中「犯人」とは関係ない者の家の場面で蝶の標本がちらりと映る。雪の降る人気のない夜に女をさらう「犯人」、寒い方が眠くならないからと自宅じゃ暖房を付けずに仕事する刑事のジョン、いずれにせよ寒い時季の話だから、厚着で腹周りが分からずよかった(笑)
雪の降り積もる街角を車でのろのろ進む「犯人」視点の映像にジョンの名とタイトルが静かに出るオープニング、その後に店で買い物する彼の佇まいがなかなかいい。そうかと思えばジョンが感謝祭の七面鳥を切るナイフに、「犯人」のナイフが重なる場面転換などの俗っぽさもあり。タバコの箱に残ったライターや、刑事と分からないように配慮する娼婦の言動などのちょっとした小ネタが効いている。
とある人物のセリフの字幕が妙に子どもっぽくてずっと違和感を覚えていたんだけど、あれはああいうニュアンスで喋っているんだろうか?それともああいうキャラクターだから、ああいう字幕にされているんだろうか?


「殺しのナンバー」は諜報機関がエージェントに極秘指令を出す際に使う「乱数放送」を題材にした作品。冒頭ちょっとした説明と「現在でもこうした暗号が使われている」と字幕が出るんだけど、最初から最後までその仕組みがよく分からなかった(笑)
しかしこれは暗号云々というより、自らの稼業について思い悩むスパイの話。映画一本、数十分でそれが「発生」「解決」するという、言うなれば大雑把な作りを、ジョンの「適当ぽいけど雰囲気はある」個性が支えている。
冒頭、「人殺し」を日常とするジョンの黒い髪、黒い眉、そして黒い瞳が、暗闇と混じり合っているようでいい。光の下では肌が荒れているのが分かる。始めのうち、彼を捉える画面は車や建物のガラス越しが多く、よく掴めない。前半は密室内でディテクティブめいたことをするんだけど、起きてしまったことをあの瞳で追うというのはジョンらしい。
放送局に出勤した際、ジョンはもう一組(そもそも彼らはなぜ「男女ペア」なのか?)の男が女の腰に手を回すのを見て、はぁ、というように口をふくらます。ジョンの方は殺すよう命じられた女性を傷つけることが出来ず、それどころか怪我をした彼女を何度も抱えて運ぶことになる。それらの場面は省略されることなく、よっこらせと、でもそう大変でもなさそうに、最初から最後まできちんと描かれる。「体を張って女性を守る」というより傷ついた女性を助けるというのも彼らしいなと思った。


私はジョンに思い入れこそあれかっこいいと感じたことはない、けど本作のラストシーンで彼女を見守る顔は、今年一番「スクリーンでアップで見られてよかった」。目覚めた彼女が安心したように再び瞼を閉じる気持ちが、痛いほどよく分かる。私もああして眠りに着きたい。
あと、ジョンが「何か話してよ」と言われる場面がちょこっと面白かった(笑・別に「Say Anything」からは程遠いニュアンスなんだけど)