ゲーテの恋〜君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」〜




「お前が書いたのは世界一ありふれた話だな、
 女に恋をし、他の男に取られ、自殺するなんて」


…と、親しみを込めゲーテをからかう旧友たち。その「若きウェルテルの悩み」の創作過程を下敷きとするこの映画だってその通り、「よくある」恋物語。それがとても良かった。
(と思ったけど、これは「今」から振り返った映画ならではのセリフなんだろうか?だって「ウェルテル」は「古典」なんだから)
ただしゲーテは死んだりしない。ラスト、街角にあふれる「ウェルテル」スタイルの青に黄色の若者たち。恋した相手と何があろうと、最後に「やられた!」とにやりと出来るなら、それが一番かもしれない。当のシャルロッテは「これは実話ですか」と聞かれ、「実話以上のもの…文学よ」と答える。


原題「Goethe!」のイメージ通り、とくに前半は軽快でテンポがよく楽しい。冒頭はまるで学園ラブコメの「都会から田舎への転校」の一幕のよう(この場合「転勤」だけど)。
冴えないやつと友達になり、パーティで女の子と出会う。徹夜の後で遠乗りし、裸で泳ぎ、好きな人の家を訪ねる。終盤には「薬」も出てくる(笑)陳腐な言い方だけど、例えば「若者」を、「恋」を描くのに、舞台は何だって構わないんだなと思った。


ゲーテは常に飛んだり跳ねたり、片時もじっとしておらず愛くるしい。陽気で気の利く彼と元気なシャルロッテの組み合わせが最高だ。気の合う二人の「遊び」っぷりに胸が高鳴る。手遊びに連弾、プロフィールを描くのはやってみたいなと思わせられた(後の場面での使い方もいい)。恋する相手を目の前に、初めて詩を読む場面も楽しい。
しかし、恋に溺れてばかりのゲーテに対し、シャルロッテは必要な時に現実に即したことを口にする。観ている私もはっとさせられる。


ゲーテの「恋敵」を演じるのがモーリッツ・ブライブトロイ、今年劇場で会うのは「ソウル・キッチン」「ミケランジェロの暗号」に続いて三度目。堅物で気の利かないエリートを、それでも憎めない感じに演じている。前二作に比べたら「分かりやすさ」「滲み出る可笑しさ」はないけど、その佇まいにより、作品全体がラブコメというよりロマンチック寄りになっていた。