築城せよ!


新宿ピカデリーにて観賞。公開初日の夕方、小さいながら劇場はほぼ満員(都内の公開館はここのみ)。面白かった。



以前チラシを見掛けて、一人でお城を作った郵便配達人シュヴァルの話みたいだな、と思い興味を持った。観てみたら、愛工大が中心となって制作(リメイク)した作品で、舞台は愛知県猿投地区の架空の町・猿投(ロケ地は瀬戸市)。出演者の多くは住民や大学関係者たち。(愛知出身の)私にもあまり馴染みのない場所だけど、一箇所だけわざとらしい名古屋弁が聴けた(笑)
写真は、ロビーに展示中の鎧と段ボール製のしゃちほこ。坂角「ゆかり」の絵入り商品も買ってしまった(ゆかり大好き)。


猿投の領主と部下の霊が現代に蘇り、400年前に潰えた築城の夢を果たそうとする。とあるヒントから導き出されたその材料は、段ボール。領主の熱意に心打たれた町民らの手で計画が進むが、同地に工場誘致をもくろむ行政側は、城を壊そうとたくらむ。



観ていて、80年代の映画館にタイムスリップしたような感じがした。BGMは控え目だし映像も素朴。領主の恩大寺(片岡愛之助)と岩手教授(津村鷹志)が、過疎の町を通り過ぎる高速道路を眺める場面など、本当に「そのへんの田舎」の一コマだけど、悪くない。クライマックスで「こんなにきれいだったなんて…」と言われる夜景は、そんなセリフさえなきゃと思わせられたけど(笑)


映画の中の建築というと、大好きな「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85)でアーミッシュたち(と主役のハリソン・フォード)が納屋を建てるシーンが一番に思い出される。気ごころの知れた仲間が協力して力仕事をする。
この作品では、領主の目的はたんに「城を作る」こと…さらに言うなら、住民たちが自分に賛同して心を合わせ築城すること…である(だからしゃちほこが画竜点睛として大きな意味を持つ)。「敵」の狙いもシンプルで、とにかく人力でもって城を破壊しようとする。画面の中に、字面そのままの「作る」と「壊す」が現れるのが気持ちいい。ただし「お城」「段ボール」にまつわる建築のあれこれが殆ど描かれないため、そういう方面の好奇心は満たされないけど。
そしてラスト、築城の舞台となった土地は、使い道の決まらないまま住民の手に戻ってくる。


冒頭、建築学科の教授である藤田朋子が板書をしつつ、授業を抜け出すナツキを咎めるシーンの古臭いギャグ?センスに心が冷えてしまったけど、そのうち慣れてきた。エキストラの子ども達の自然な感じも良い。
キャラクターに悪人がいないのもいい。「敵」の町長(江守徹)も自分なりに町のためを思っている。城を壊す一般市民たちは、そうと知らず無邪気に彼の「手下」となる。
領主(領主に体を乗っ取られた青年)を演じた片岡愛之助の演技は「安心」の一言で、霊が去った後の別人ぶりもすごいけど、がっしりしたふくらはぎの立ち姿は、肉体を遣う役者さんだなと思わせられた。


愛知県内の女子高校生は、親から「車買ったるで、うちから通える大学にしやあ」と言われる…という伝え話?がある(実際に聞いたことはない)。それを私に聞いて知ってる同居人は、ナツキが学校から帰るのに車を出すシーンで笑っていた(もちろん自分で稼いで買ったものかもしれないけど)。車通学の描写が日本映画では久々のような気がして、楽しかった。
加えて大学生活といえば、私は文学部(しかも哲学専修)に在籍してたので、建築学科の授業の様子やその団結ぶりも、よくある描写ながら面白かった。