立川談笑 月例独演会スペシャル


博品館劇場にて銀座夜話2days。「牡丹燈籠」を再構築し、「同一のストーリーを、二通りの演出で」口演。


二日とも、枕で企画について簡単に触れる。「大円朝」の本作を、やると決まってから岩波文庫で読んだそう。「15夜連続興行のための作品だから、肉やエビだけじゃなく『ツナギ』が多い、刈り込んだら原型が無くなった」「連続ドラマの劇場版を作るようなもの」。一日目の終盤、旦那が定吉に話しかけながら「こういうのがこの噺の嫌いなところなんだよなあ!」というあたりにも姿勢が垣間見える(笑)


ともに共通の、前半のあらすじはこうだ。若い二人の恋物語はばっさりカット、話はとある荒物屋の旦那と番頭(これが伴蔵)のやりとりから始まる。遊びが過ぎて謹慎中の若旦那の許に通ってくる二人の女について聞かれた伴蔵が「幽霊話」をでっちあげる。話が広まり周囲は観光客で賑わう。旦那は女を入れないよう、伴蔵にお札を貼らせる。ある晩、息せき切った伴蔵が言うには、明かり取りのお札を一枚だけ剥がしたら、女たちが燈篭ごと二つ折りに吸い込まれていった。旦那が離れに飛び込むと、二体重なり合った白骨と一体離れた白骨が散らばっていた。後に皆が駆けつけると、屋敷のほうは血の海だった。
白骨を白い牡丹、血を赤い牡丹に見立てたり、「燈篭」がキーとなり何度も出てくるあたり、ずいぶん映像的、というか映画の放送の副声音を聞いてるような感じを受けた。


(以下、長くなるのでたたみます)


1日目は「愛と正義の、side-A」。前半・後半ともに35分ほど。会場の照明が全て落ち、真っ暗な中に出囃子のウルトラQ。ちなみに客入れ時などのBGMはスターウォーズのテーマ。「親子もの」つながり?
後半はお盆らしく、死者が戻ってくる話。20年後、店を継いだ若旦那(現・旦那)は、息子宛てにとある手紙が来たのを機に、流山の同じ屋号の荒物屋に出向く。そこには事件後、姿を消していた伴蔵とお米(灯籠持ち)の姿が。旦那は伴蔵を江戸まで引っ張って行き、死んだ父親の墓前で詫びろと刀を突きつける。そこに父親の幽霊が現れ「真相」を告白する。
旦那いわく「恨みを恨みで返してもしょうがない、おやじもおれも成仏できないかもしれないけど、ここで断ち切ろう」。突然「主張」が繰り出されるので、白鳥さんの「明烏・女版」を思い出してしまった(笑)「サゲ」は旦那が連れていた定吉が、父の名を問われて「山本志丈」。
笑いは、主に古典落語のパロディにて。「崇徳院(もしくは千両みかん)」「干物箱」「お菊の皿」「茶の湯」などが散りばめられる。


2日目は「欲望渦巻く、side-B」。照明や出囃子などの演出は前日と同じ。BGMはなぜか「大脱走」。「昨日は刈り込みすぎて、60分で終わってしまった・笑」ためか、枕から少々長め。いつものように中国や高校野球などの話題で盛り上がる(笑)
前半は前日より説明過多ながら、力強くじっくり聴かせる。古典のパロディを省略し、定吉のボケで笑いを取る。
枕で昔の「怪談師」の話に触れ「ケレン極まりないですよね」などと言っていたので、怪談という「カタチ」をオモテに出すのかな?と思いきや、やはり談笑らしく、物事にはちゃんとした理由があるのだった。後半では悪人「山本志丈」が、恨みつらみを伴蔵にぶちまける。志丈って、というかどんな物語の悪人も、たんなるワルのほうが好みだから、ちょっと馴染めなかった。
医者の志丈は遊びの際にクスリを使う。談笑らしいなあと思っていたら、伴蔵の体験も、志丈が反魂香で見せていた幻覚だった。一つの見方だけど、物事の辻褄を合わせるのがポリシーの談笑にとって、ドラッグとはそのためのものでもあるんだ、とすごく腑に落ちた。


「牡丹燈籠」の「複雑」さは、パッチワークのような、平面的な広がりだ。談笑の噺は、今回に限らずいつも奥行きがある。そこに「落語」からの距離、あるいは自由さがある。
とはいえ全体的には、初日がリハーサルで二日目が本番、といった印象を受けた。二日目の方が明らかに練れてて面白いなんて、「スペシャル2days」じゃない。結局「スペシャル」と銘打っても「ネタ下ろし」なんだよなあ。もっとも「ネタ下ろし」を「スペシャル」にしてみせるという気概こそ、談笑を好きな所以だけど。