ペネロピ


テアトルタイムズスクエアにて観賞。



ペネロピ(クリスティーナ・リッチ)はブタの鼻と耳を持つ娘。先祖の呪いを解く方法はただ一つ、同じ名家の「仲間」にありのままを愛してもらうこと。
屋敷に閉じこもりお見合いを繰り返すも、男たちは皆、彼女の顔を見るなり逃げ帰ってしまう。しかしある日、ペネロピの鼻に動じない青年マックス(ジェームズ・マカヴォイ)が現れる。


とにかく可愛く楽しいおとぎ話。彩りの豊かさに「ロバと王女」を思い出した。ひと昔前の少女漫画ぽいキーワードが散りばめられたあらすじは、「悪魔の花嫁」の一話(でもハッピーエンド)といったかんじ。一番ぴったりはまるのは、70年代の山岸凉子かな。
クリスティーナ・リッチのブタ鼻は、大きな額と瞳、相変わらずの眉間のシワなどの愛らしさと絶妙のバランス。栗色に輝く重たいロングウェーブヘアに、初めて女性の髪に「実際に」魅力を感じてはっとした(これまで男性の髪にしか感じたことがなかった)。



ジェームズ・マカヴォイの「王子様」ぶりには、久々に劇場でうっとりさせられた。整いすぎない甘い顔立ちが、ペネロピと「とりあえず、今」の幸せを分かち合う相手にぴったりだった。帽子やスーツ、ワンシーンだけ見せてくれるジーンズ+Tシャツ姿も素晴らしい。ナルニアのロバ男だとは、名前見るまで分からなかった…。
ちなみに登場時は(酒場でギャンブルという状況も手伝い)かつてのエドワード・ファーロングかと…観進めるうちにラッセル・クロウをうんと美系に、うんと若くしたようかんじだなと思った。いずれにせよ、早く保護しないとヤバい方向に育ってしまいそうってこと(笑)ピアノを弾く腕、けっこうぷよってたし。


キャサリン・オハラ演じる母親もいい。娘を屋敷に閉じ込め、かかりきりで身の回りを飾り立て、群がる新聞記者を追い払う。結婚式の準備中、不安がる娘に「だいじょうぶ、すてきよ」と一緒に鏡をのぞきこむが、手は自分の髪へ。ペネロピのブタ鼻が治ると「(あの鼻が)ママも懐かしいわ」などと言う始末。むしろ付き合いやすそうなキャラクターだ。
対してリチャード・E・グラントの父親は影が薄いけど、娘を失い戸惑う妻を戸口でしかと抱きしめるシーンは良かった。ペネロピとマックスのマジックミラー越しデートの映像を、夫婦してアイスやらポップコーンやら持ち出して野次馬的に見るシーンが可笑しい。名家の大人は暇でいいなあとも思った(笑)


ペネロピはマフラーで鼻を隠し、外へ飛び出す。いまの時節の日本なら花粉症のマスクがいいかも、などとつまらないことを考えつつ、母親が…「世間」が恐れる「世間」とはなんだろう?と思いめぐらせた。



(ペネロピとお見合いし逃げ帰ったエドワードと、その父親とのやりとり)


「だって父さん、あいつは化け物だよ!」
「でも大衆(public)に愛されてるぞ。お前も大衆に合わせるんだ」


この映画ではペネロピと「世間」との仲はマスメディアがとりもつ。フラッシュの光るカメラを持った人間が押しかけ、新聞のトップ記事となることで、彼女と「世間」との関係が作られる。なぜかコーエン兄弟の「未来は今」を思い出した。
彼女を追う記者のレモン(ピーター・ディンクレイジ)は小人症だ。小人は「異常」でも一見普通に生活しているが、ブタ鼻娘はひとまずそうならない。またその鼻は取り沙汰されるが、同じくブタ仕様の耳は髪に隠れているためか誰の口にものぼらない。何がどう見えるかによるんである。
ペネロピの写真を本人から受け取ったレモンが、見上げると彼女はもういない…というシーンが印象的だった。



「罪状はなんだ?ぶさいくってことか?
 それなら市民の半分は罪人だぞ」