アメリカン・ギャングスター


新宿プラザにて公開初日。とても面白かった。最後の30分、「実話に基づく」という冒頭の字幕を思い返して胸がどきどきした。
(エンディングロールの後に大切な場面あり)



1970年代初頭のニューヨーク。ハーレムを仕切るギャングに15年仕えたフランク(デンゼル・ワシントン)は、ボスの死後、バンコクから麻薬を直輸入し安価で売るビジネスにより成功を収める。一方汚職が横行する警察内部で頑なに賄賂を拒むリッチー(ラッセル・クロウ)は、麻薬捜査班のリーダーにスカウトされる。地道な捜査の結果、彼のチームは陰の大物・フランクの存在に迫る。


ベトナム戦争からアリの試合(リッチーいわく「今日の試合は政治だ!」)まで、物語の鍵となるのはアメリカの歴史そのもの。加えて、家庭での変化…電子レンジやターキー用の電動ナイフなど電化製品が登場するのも面白い。
道具といえば、リッチーと彼のチームが現場に踏み込む際、斧を携えてるのもよかった。男の人が重いものを持ったりああいう道具を抱えたりしてるところを見るのが大好き。それにしても70年代の雰囲気がよく出ていた。


冒頭、フランクを連れたボスは、街角にオープンしたリサイクルショップの店内で最近の世の中…直売店が増え中間業者が締め出されるようになった世の中…について嘆き、死んでゆく。フランクはボスが憂いた方法を取り成功を収める。しかしいつまでもボスを尊敬し、デスクに写真を飾り、感謝祭には彼に倣って皆に七面鳥を配る。
性分としても戦略としても目立つことを好まない彼は、いつも地味なスーツ姿。毎朝5時に起き、ニューヨークのお菓子・チーズケーキの絵が窓に描かれた古ぼけた店で食事を取る。コーヒーには砂糖をたくさん入れる。
成功への目途がつき、電話で家族を呼び寄せる際の笑顔が印象的だった。ジョークも言わず、友達もいない男の、作中唯一のはじけそうな笑顔。


リッチーは、息子の親権を掛けて争う前妻から、法廷で言われる。
「あなたが『真面目』なことをするのは、ある部分で不真面目でいるためよ。
 (中略)
 『真面目』だからって天国には行けやしないわ」
ここで彼女が言う「真面目」とは賄賂を受け取らないこと、不真面目というのは「女情報屋と寝ること」…つまり、妻である自分以外の女性とセックスしていたこと。当たり前だがセックスのやり方と「真面目」であるか否かは関係がない。何を「真面目」とするか、何を意識的に行うかは個人によって異なり、誰もが自身の指標で動く。フランクは極めて真面目にビジネスを展開するし、リッチーの司法取引による最終目的も、私からすれば(良い悪いではなく)ああそれが彼の「真面目」なのか〜と思わせられた。


一族を呼び寄せ周囲を固めたフランクは、何かというと「ちょっと座れ」と言って話をする。いかにもファミリーのトップに立つ者の行動だ。しかしママだけは彼に「座りなさい」と言うことができる。一刻を争う時でも、そう言われればフランクは取りあえず腰を下ろす。「ファミリー」を持たないリッチーは、同じことを言われたらどうするだろう?(笑)


フランクの妻が、リッチーの前妻(カイラ・グギーノ)と顔が似ており面白かった。意図的なキャスティングなんだろうか。


予告編にも使われた「Across 110th Street」は、やっぱりかっこよかったけど、金銭的にめぐまれた人には似合わないように感じてしまった。