素晴らしき休日/恋の旅路


▼昨年末にDVDがリリースされた「素晴らしき休日」を見た。


素晴らしき休日 [DVD]

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「一歩も引かない/強情なんじゃない/私が正しいから」


オープニング、ケーリー・グラントが玄関のベルを鳴らしても、暖炉の前の居心地があまりにいいのかどちらも動こうとしない親友夫婦も(この描写好き・笑)、「他に居場所は無い」と子どもの頃の部屋に一人こもるキャサリン・ヘプバーンも、皆みんな、事情は違えど最後には、家なんて放って旅に出る。先に挙げたヘプバーンの、危うくも素晴らしいセリフに泣けてしまった。
グラントと婚約した当の妹と違い、ヘプバーンは妹のことが心配なゆえ、あるいは父親と二人きりでの「尋問」はかわいそうだと思うがゆえ、彼の口から語られる内面を知る機会に恵まれるというのがうまい。「姉さんは僕と違ってあきらめが悪いから」という弟のセリフ、政治の話を避ける親戚の女性など、こまかなところも面白い。


妹とグラントが家の中でキスをしているところに出くわすのが、ヘプバーンの登場シーン。二人を見送り、階段を駆け上って退場する。確かにここは、駆け上るしかない!(笑)パーティに揃った大勢がこちらを見下ろすカット、上の階に向かう人の群れに逆らって階下に走り降りるヘプバーンの姿、「会社かな?」とグラントが勘違いするほどの大きな屋敷の中の階段がとても効果的に使われていた。



ジョージ・キューカーキャサリン・ヘプバーンが組んだ映画で見ていないもの、まだまだあるよなあと、タイトルさえ聞き覚えのない「恋の旅路」を借りてみた。75年のTVムービーで、ヘプバーンとローレンス・オリヴィエの唯一の共演作だそう。ヘプバーンは「才能の無かった元女優」、オリヴィエは「詩や戯曲を諳んじる弁護士」、「40年前」に3日間だけ愛を交わした二人のお話。すごく面白くは無いけど、ちょこっとは面白かった。


オープニング、オリヴィエが、ヘプバーンを待ち焦がれて5分程ずっとばたばたしているのが楽しい…がそれは冒頭だけ、その後はずっと、二人は「裁判」を蓑にした会話でもってやりこめ合う。前日見た作品と比べてしまうせいもあり、年を取った男女の口だけのやりとりはどうにも「重い」。
後半はほぼ法廷劇となり、衆目の中、オリヴィエが傍から見れば頓珍漢に違いない熱弁を振るう場面が続く。映画の始め、ヘプバーンの脱いだ帽子をぞんざいに扱うのに「好きな人の持ち物なのになぜ?」と妙な感じを受けたものだけど、裁判の最中、彼は彼女の前で「彼女」の幻影を見、目の前の彼女には全く気を遣わず「彼女」を守ろうとする。そんな恋、全然応援できない。
「こいつらどうなるものか」と思っていたら、最後に(私にとっては)どんでん返しのごとく、オリヴィエだけではなくヘプバーンも、また他の人々も「変」なのだ、だから何だっていいのだと突如世界が違って見えて驚く。退場させられたヘプバーンが何をしていたかを描く数秒と、彼女がいまだ「女優」だったと分かる結末、「出会い」を繰り返し連れだって道をゆく二人の後ろ姿に、想像もし得なかった涙まであふれてしまった。「ともあれ二人ともまだ元気」…年を取ったらこれが大事(笑)