コン・ティキ



公開初日、角川シネマ新宿にて観賞。探検家トール・ヘイエルダールによる「コン・ティキ号」での100日間の航海を描いたノルウェー映画


オープニング、度肝を抜かれるほど可愛らしい顔の男の子が登場。氷上の鋸?を取ろうと、衆目の中、母親いわく「また目立とうとして」困難に挑戦してしまう。助かったのは幼馴染の彼のおかげだからね、とたしなめられるも、ベッドの中で満足気なその顔が、成長後の顔に繋がる。この青年…トール・ヘイエルダール役の俳優さんも大層な美丈夫なんだけど、少年時代の子役同様、私には何も訴えてこず、魅力が感じられなかった。
映画そのものも同じで、面白いことが色々起こってるのに、熱が伝わってこない。しかし「クライマックス」以降はとても楽しかった。あの出来事そのものが面白いし、ロケーションは素晴らしいし、なにせ「成功した」ことで色々チャラになり心が高揚する。まるでああいう冒険に参加している船員の気持ちみたいじゃないかと思う(笑)


冒険ものといえば、まずは資金と仲間集め。窮地に陥るも、顔も知らないペルーの大統領に「ペルー人がポリネシアを見つけたと証明してみせますよ!」とアピールして事なきを得るのが可笑しい。仲間には件の幼馴染やグスタフ・スカルスガルド演じる民族学者も居るけど、心に残るのは、ハリウッド映画ならフィリップ・シーモア・ホフマンの役回りであろう「冷蔵庫屋」。彼が路上で書き足したメモ、船上で殴り書きしたメモが「具現」するのが楽しい。
それから、故郷ノルウェーで二人の子どもを育てている妻とのやりとり。「(クリスマスなのに)うちに帰らないの?」と言う妻の、電話のコードを握る手が不安を表しているんだけど、ラストでは、それでもあれが、彼を陸に引き寄せたような気がしてしょうがなかった。会員制クラブでの一幕といい、結局は、少なくとも当時は「冒険は男のもの」であったことをひしひしと感じる。


出航の時を迎え、多くの人に見送られるスーツ姿の男達。筏が岸から離れる瞬間のトールの表情がいい。「泳げない」彼にとって、足の着かない洋上に出ることには特別な意味があるのだ。その後、筏の上のトールを中心にカメラがぐるりと回る場面では「船酔い」しそうになってしまった。出発した筏にしばらく多くの船がくっ付いてくるのは、マスコミなのか、それともマラソンの応援中に沿道をちょこっと走ってみる観客みたいなものか(笑)
以降もずっと、海の様子がとてもよく表れている(って、実際のところは知らないけど)。凪いでいる時は、平たい水面と平たい筏が共にゆらゆら揺れ、一体となりどこまでも広がっている。筏の下から見上げたカットが多いのは、私にはロマンチック過多かな。
人間関係の描写としては、「冷蔵庫屋」が、丸太に水が染みていることに気付くもワイヤーを使ってくれと言い出せず、毎日黙って見ている姿に、いつ気が狂うかと思ってたら、いや、狂っているのは一体誰?という場面が面白かった。あっさり解決してしまうんだけども。


ところで、冒頭トールがファツヒバ島で写真を撮る際、現地の人達に「笑わないで」と執拗に念押ししているのはなぜだろう?「自然」な彼らの姿を残すためかな?