崖っぷちの男



なかなか面白かった。「高層ホテルから飛び降り自殺を図ろうとする男」という情報だけで観たら、意外な内容も楽しめたので、以下の文章は、未見の人は読まない方がいいかも。


オープニング、地下鉄の駅の階段から上ってくる一人の男…サム・ワーシントンが、青池保子の描くおっさんみたいなのでびっくりした。その後、カメラは「ニューヨーク」のいつもの様子を一通り示してから、ホテルに落ち着く。
21階の外壁の縁に立った彼、ニックが「指名」するのが、エリザベス・バンクス演じる「交渉人」のリディア。こちらもずいぶんくたびれた雰囲気で登場。目の下のクマは、わざとじゃないんだろうけど(笑)しかしそのうち、サムとエリザベスの共に薹が立った感じが合ってるなと思えてくる。中盤の二人のやりとりは味わい深い。
他のキャストはニックの弟ジョーイにジェイミー・ベル、金持ちの「悪役」にエド・ハリス(こちらもめちゃくちゃ老けてた!)など。


(以下「ネタバレ」しています)


一番面白かったのは、ジョーイの恋人アンジーがとあることにひるんでしまうと、ニックが「皆がお前を応援してるぞ!」と群集を焚き付けて歓声を聞かせる場面。目的を遂行しようとしているニック達の、「素人」じみた振る舞いに少々苛々させられるのが、ラストシーンで却って活きて来る。(金持ちや悪徳警察に対し)「市井の人」が勝つって話だったんだなと。その中で唯一「手練れ」に見えた人物が実は…というのも嬉しい。エンドクレジットにかけての爽快な映像&音楽も楽しかった。


それにしても、パワーはあるけど無骨な映画だなと思わせられた。まず警察がリディアを呼び出す際、ニックが「30分で来ないと飛び降りる」と言っていることを伝えずに切ってしまうのが引っ掛かった。そういうものなのかな?と思いつつ、終盤、わざと告げなかったのかな?とも思う。結局どちらだったのか分からない。「分からない」のが気にならない、あるいは却って楽しめる映画もあるけど、そうじゃない類の「分からなさ」が放置されてる、という印象を受けた。
アンジーが、あんな大仕事に臨むのにロングヘアを束ねていない(ただしある時にはまとめる)のは、「そういう女」なのか、たんなる「映画」的演出なのか。また最後にジョーイが彼女に贈るもの…自体は面白いんだけど、彼女が「それ」を認識しているのか否か。そういうところが気になった。最もその後のニックのセリフはよかったけど(笑)


ところで、作中とある人物の「おれはブロンクス出身だ」というセリフに、たまたま今読んでる「ザ・ビッグイヤー」(「ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥をさがして」(感想)の原作)に「昔から、根性のあるブロンクス男を甘く見るやつは『敗残者』となると言われる」というような文章があったのを思い出し、へ〜と思った。