海洋天堂



水族館に勤める父(ジェット・リー)は、妻亡き後、自閉症の息子・大福を一人で育ててきた。しかし自らが癌で余命いくばくもないことを知り、21歳の息子の将来のため、出来ることを考える。


冒頭、海の上の小舟に乗る親子。スーツ姿の父親は、真新しい白いスニーカーを履いた息子の足首を、自分のそれと結わえ付ける。その先には重り。夢の中のようにドラマチックなこのシーンにも、ちゃんと「意味」がある。後に父親は隣家の女性に向かって「息子は泳ぎがうますぎて、閻魔様から逃れた」「だから息子には、この世に居場所があるんだ」と言う。そう信じて頑張る。


人の死を小綺麗に描き、出てくるのは信じられないほどいい人ばかりでありながら、大仰じゃなく自然で、嫌みがない。久々に、こんなに「きれい」な映画を観たと思った。予告編だと唐突かつクサく見えた「父さんは海亀になってお前を見守ってるぞ」というくだりも、あるべくしてある。そこに至るまでの、そうでなければならないという父親の心情が伝わってくる。
大福の家出の顛末や、父親と隣家の女性とのひとときなど、しっとりしていて、うまく言えないけど、いかにもアジアという感じがしていい。


息子を新しい施設に残して帰る際、父親が恩師に思わず「自閉症っていいもんですね、僕と別れる時も全然寂しそうじゃなかった」ともらすと、彼女は「分かってるでしょ、感情をうまく表現できないのよ」と言う。こういうちょっとした描写の端々に、「自閉症」に対する真摯な気持ちを感じた。
ラストの展開には、ものを教えるってことが命をつなぐことなんだなと思わせられた。卵やバス停などの小道具がとても効いている。


冒頭から、鉢にあふれる水、雨、そして水族館。撮影のクリストファー・ドイルお得意の「水」描写がふんだんに見られる。水族館映画としては、大きな魚がたくさん出てくるし、水槽の中からの映像が多いのも面白い。


眼鏡姿で笑うリンチェイを見ながら、確かウィルソン・イップがDVDの特典映像で、アクションが出来るから映画に出られるわけじゃない、演技が出来る者にアクションをやらせたほうがずっといい、とか何とか言ってたのを思い出した。彼もまず役者なんだなあと。
実際の彼は泳ぎの方、どうなんだろう?本作では泳ぎの得意な息子に対し、自分はそうでもないようで、ウミガメになって溺れるシーンがちょっと可笑しかった。