八日目の蝉



既婚者の子を身ごもるも中絶した希和子(永作博美)は、相手の妻の産んだ赤ん坊・恵理菜を誘拐。薫と名付け、母娘として「幸せに」暮らすが4年後に逮捕される。十数年後、大学生となり一人暮らしをする恵理菜(井上真央)の元に、ライターを名乗る千草(小池栄子)が訪ねてきた。


原作は未読。たまたま時間が合ったので観てみたら、とても良かった。昔読んだ、数々の少女漫画を思い出した(「ルツ」なんて名前が出てくるし・笑)。始めのうち、「事件」なんだから清張ものみたいに「年と場所」を示すテロップがあればなあと思ってたんだけど、次第に、そういう「社会的」な話じゃないことに気付く。
緊張感が持続する前半に比べ、後半は希和子が「薫」に愛情を注ぐ場面がこれでもかと描かれるばかり。冗長な感じを受けつつも、前半の恵理菜が惑っている様を思い出し、どれだけ愛を受けても、自分の問題は自分で乗り越えるしかないんだと涙が出た。


永作博美の熱演よりも、井上真央の「自分で道を切り開いていく」主人公へのはまりぶりに惹かれた。公園のトイレから出てきた時の顔など素晴らしい。
(…とは思うものの、こういう物語に接すると、なんで中出しするの(させるの?)と引っ掛かってしまう。倫理的にって意味じゃなく、創作上の面倒に目をつぶってるように思えるから)
大仰な演技ながら小池栄子も良かった。胸をひっこませた歩き方。登場時、独特なセンスの服装に目を引かれていたら、後半、「昔」着てたものと通じるところがあると分かり切なくなる。井上真央に接近してくる「異様」な感じに、こういう人っているかもと思い、色んな人がいるって意味で、「女性が普通に描かれてる」映画を自分は観たいんだと気付かされた。


希和子は「エンジェル」から掛けられた言葉に、恵理菜は千草から掛けられた言葉に、それぞれはっとして、緊張していた心をゆるませる。深く知ればすれ違ってしまうかもしれない、言った側は後に忘れてるかもしれない、やりとりであっても。そういうちょっとしたシーンが印象に残った。