クレアモントホテル


作家エリザベス・テイラーの原作を基にした2005年作。ロンドンの街角に建つクレアモントホテルを舞台に、老婦人サラ(ジョーン・プロウライト)と美青年ルードヴィック(ルパート・フレンド)の交流を描く。



「老人と若者のラブストーリー」って、若者の方はどう思ってるんだといぶかしんでしまう場合もあるけど、青年が「小説家志望」であり(交流を執筆に活かすという理由があり)、彼の小説をナレーションに使用してるというのが、ずるいというか上手い(笑)
ジョーン・プロウライト(故ローレンス・オリヴィエ夫人)は高貴な坂上二郎といった感じの顔なので、役柄に合わないなあと違和感を覚えたんだけど、最後にはそれでよかったと思った。


サラがホテルを訪れる冒頭は、グラナダTVのドラマのような雰囲気。「リタイアした人々がホテルに集ってる」という設定がクリスティもののように感じられるからかな(あんな安宿は出てこないけど)。想像とまるきり違う雰囲気に戸惑うサラの姿を始め、全編に渡って上品なコメディタッチが貫かれており、岩波ホールにしては珍しく?場内に笑いが満ちていた。
老人ホーム然としたクレアモントホテルは、「再・再放送」の「セックス・アンド・ザ・シティ」が唯一の刺激、「ご臨終は禁止」。でも、時が止まったように見えて、そうじゃない。ルードヴィックいわく「夢を見ていても、現実に四方を取り囲まれている」。そこへ来て、坂上二郎の顔が活きてくる。


前半はまさに夢物語。かがんだ腰から下着が見えるルパート・フレンドが、擦りむいた膝をふーっとしてくれる!(大好きな「タイムトラベラー」のブレンダンもやるあれ、その後に歌ってくれるところも同じ!笑)膝の抜けたジーンズ、ご丁寧に染みのついたジャンパー、しかし「公文書館にしまっておいちゃいけない顔」のせいで回春効果はばっちりだ。
サラから贈られた「綿100パーセント」の白いシャツにエプロン姿で料理を振舞った後、暖炉の前でルードヴィックが持ち出すのは、雑誌の「友達テスト」。「相手が遅れてきたら」の問いに、サラは「あなたは遅れてこないから…」と答える。「僕だと決めつけないで」「だって、他に友達がいないもの」すると彼は寂しそうな顔をして、雑誌をしまいこんでしまう。「僕も友達がいない、お金や仕事、車がないとそういうのって難しいんだ」。もし二人が「恋人」ならば、互いに友達がいないことが何の支障になるだろう?実際、後に出会う女性との関係においては、そんなこと気にもとめていなさそうだ。


カトリーヌ・フロ主演「女はみんな生きている」にも、つれない孫に会うため都会のホテルに長期滞在するおばあちゃんが出てきたっけ。こちらの方も、理由は違えど、孫などどうでもよくなってしまうんだった。
本作で数回登場する「本物の孫」がちらっと見せる笑顔も、ルパート・フレンドにはかなわないとはいえ、悪くなかったけど(笑)


「これまで私はずっと、誰かの娘、妻、母だった、だから残りの人生は自分自身でありたい」と言ったサラが、夜中に本を取り落とした際、また病室で目覚めた際、夫の名を呼ぶ。そういうことってあるんだろうなと思う。