黒く濁る村


ラスト、主人公が再び村を訪れる際の車窓の風景が印象的。日本でもいやというほど見られる、都会からずいぶん走って田舎に入る手前の、あの風景。この物語の最後に見せられると、「昔」の世界に「今」の手が入っていくようで、何かから目覚める感じがした。



ソウルに暮らすヘグク(パク・ヘイル)は、長年音信不通だった父親の訃報に、山奥の村を初めて訪れる。しかし村長のチョン・ヨンドク(チョン・ジョエン)や取り巻きの男たちは、あからさまに彼を煙たがり、追い払おうとする。不審に感じたヘグクは、腰を据えて父の死因を探ることに。


勝手に横溝映画のようなものを想像していたせいもあり、前半は、村の「いやな感じ」が伝わってこないのに拍子抜けした。「現代っ子」である主人公ヘグクも、嫌がらせにあまりダメージを受けない。葬式の席で村長の酒を断り「おれの杯が飲めないのか」と言われるとそれじゃあ、とごく普通の顔で飲み干し、周囲に返杯する。前後のやりとりは忘れちゃったけど、何らかの目に遭って「へへっ」と笑ってみせる場面もある。
村そのものが、映画のセットのように(と「映画」の感想に書くのもへんだけど・笑)作り物めいて感じられる。観ている私が、村長を演じているのがチョン・ジェヨンだということ(老けメイクをしているが「実際」は若いこと)を知っているのもそれに拍車を掛ける。知らずに観たらどうだったろう?
村の成り立ちを考えたら「箱庭」ぽいのは当然だし、「作り物」だからつまらないってわけじゃない。しかし、例えばチョン・ジェヨンがヤクルト?飲んだ後、腕を振って老人がやりそうな体操をする仕草なんてコントのようで笑ってしまったし、雨の中の立ち聞き!振り返ったらテープレコーダーが!(見つかるように置いたにせよ)といったシーンも、漫画っぽくていまいち入り込めず(漫画がどうっていうんじゃなく、映画には映画の機微があると思うから)。
後半、ユ・ジュンサン演じるパク・ミニク検事が活躍するようになってからは、彼の明朗さやヘグクとの奇妙な絆が楽しく、また明かされていく「真相」も興味ぶかく、面白く観た。


作中唯一の女性が、尻から登場するヨンジ(ユソン)。中森明菜のような顔立ちと表情、ゆるくまとめた髪、あり合わせの衣服。彼女は「1978年」の時点と比べて、「現在」においても老けていない(老けメイクをしていない)。「特別」な女なのだ。「特別」な女しか出てこない物語って、あまり好きじゃない。途中から予想してた通りのラストにも白けてしまった。


「生食」に始まり、食べ物描写は充実しており楽しかった。小皿が幾つも並ぶ庭先の卓、パク検事がありつけないスープ、村長が準備するレトルトのサムゲタン(「義兄弟」でも鶏肉が出てきたなあと思い出す)。でも一番のお気に入りは「コーヒーうまいなあ」のシーン(笑)あのカップの感じ、あのコーヒーの色具合、とても良かった。