ようこそ、アムステルダム国立美術館へ


ユーロスペースにて、ほぼ滑り込みで観賞。


2008年オランダ作品。2004年に大改装に入ったものの中断され、いまだ(2010年夏現在)工事再開の目処が立たないアムステルダム国立美術館の舞台裏を取材したドキュメンタリー。関係者それぞれが意見を言い、議論する。人の顔を見たり言葉を聞いたりするのが好きな私としては満足。



まず「美術館」対「市民」の構図が示される。美術館側が示した改装計画に対し、サイクリスト協会が「通行スペースが小さくなる」と文句を付ける。地区委員会も科学省も改築に反対だ。
映されるのは「美術館」と話し合いの場が主で、近隣市民の暮らしぶりは不明。館長については、「世界中に家を持ってる」というスタッフのセリフなどから、かなり裕福であることが分かる。彼に言わせれば「国の威信が掛かった問題なのに、自転車ごときにこだわって」「アムステルダム市民は議論好きだから」とのことだけど、毎日通る道を封鎖されたら困るという気持ちの方が私には分かるな…
ちなみに館長はかなりの大男で、金剛力士像を買い付けに来た際「こりゃあ大きいな、日本人からすると等身大以上か」と言うんだけど、像より彼のほうがでかいのが可笑しい。


その他の人々。スペイン人の建築家コンビにしてみれば、コンペで優勝したのに今更なぜ?という感じ。建築物に「ドラマチックさと感動」を求める彼らは、長引く騒動の中で次第にやる気を失っていく。いわく「民主主義が悪用されてる」。
各部門の学芸員トップは、改装後の持ち場に何を・どのように展示するかを考える。設計図を元に「一週間かけて作った」模型に、写真を切り抜いた美術品を配置していったり、収蔵庫で美術品の取捨選択について話し合いを行ったりする様子が面白い。日ごろ自分が訪れる、ぎちぎちに並べられただけの展覧会と比べてしまうけど、余計なお膳立てなしに素の作品を観ることができてるともいえる。
さらには修復士(女性ばかりなのはなぜ?)、警備員などの仕事の様子が差し挟まれる。


淡々とした作りだけど、冒頭に映る、1885年に当美術館を設計したカイバースの胸像(外壁についてる)と、エンディングの、収蔵庫に「眠る」美術品の群れからは、皮肉めいた印象を与えようという意図を少しだけ感じた。