モリエール 恋こそ喜劇



ル・シネマにて観賞。いまんとこ今年一番ってくらい面白かった。


喜劇作家モリエールの生涯における「空白の時間」を描いた物語。
17世紀半ばのパリ。貧乏劇団の若き座長モリエールロマン・デュリス)は、貿易商ジュルダン(ファブリス・ルキーニ)から借金の肩代わりを申し出される。条件は、サロンで人気のとある未亡人(リュディヴィーヌ・サニエ)の気を惹くための演劇指導。司祭のふりをして屋敷に赴いたモリエールは、夫人のエルミール(ラウラ・モランテ)と惹かれ合う仲になる。


オープニング、画面いっぱいに広がって揺れる生地の数々(キャストのクレジットごとに交代する)に、劇場で観てよかったとつくづく思わせられる。モリエールが「殿下」に謁見するベルサイユ宮殿の庭などのロケ地、襟や袖などにデコラティブな工夫がこらされた衣装が、見ていてとても楽しい。
ロマン・デュリスファブリス・ルキーニといえば「PARIS」(感想)でも「素顔の」パリを眺めてたけど、時代は違えど今回も、豪奢なばかりではない、パリの人間臭いごたごた感と共にある。
舞台となるお屋敷も、豪華だけど手が届きそうな温かみがあり、とくに何度か挿入される夕食のシーンが、昔の日本のドラマのお茶の間のようで楽しい。モリエールの正体を知った夫人が笑いを抑え切れなくなるシーン、最近観た映画の中で一番ってくらい好きだ。


このフィクションで描かれるのは、「喜劇では人の心を動かすことはできない」と考えていた若きモリエールが、愛する他者の意見を受け入れ、「喜劇」によって「名前を売る」ようになったいきさつだ。
即興喜劇に笑い転げる夫人に対し、モリエールはこんなもの本懐じゃない、自分は悲劇を演じたいのだと告げる。やってみせてとの頼みに重々しく喋り出すが、夫人は吹き出してしまう。よく言うように、笑わせるんじゃなく笑われてしまう。彼には喜劇がお似合いなのだ。
「喜劇はうわべの笑いしか与えることができない」と断言するモリエールに、彼女はそんなことはない、魂に触れる喜劇をあなたが作るのよ、と言う。さらには有名になることの大切さにも触れる。



「ものごとは、楽しいか退屈かのどちらかよ」


ストーリーにはモリエールの作品が色々織り込まれているようだけど、私には分からない。しかし多くの人間が思いを抱き、会話をし、「演技」に挑み、事態が流れていく様子がとても面白い。才気とエネルギーにあふれるモリエールを演じたロマン・デュリスは勿論、間抜けな町人貴族を演じるファブリス・ルキーニの愛らしさ、「成熟」とはこういうことかと思わせられるラウラ・モランテの美しさ、リュディヴィーヌ・サニエの顔のくだらなさ、全てが素晴らしい。


ラストシーンで涙をしぼっておきながら、(大林宣彦の)「時をかける少女」じゃないけど(笑)可笑しな具合に現実に戻らされるエンディングも良い。