理想の彼氏


原題は「The Rebound」。作中でキャサリン・ゼタ・ジョーンズと女友達が「彼をはずみ(rebound)に次の男にいきなさいよ」「はずみなんかじゃないわ」…などと話していたから、そういう意味合いなんだろう。邦題「はずみの彼」でも悪くないと思うけど(笑)「偶然の恋人」(←妙だけど、好きな邦題)みたい。



離婚して子連れでニューヨークへ越してきたサンディ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)が、カフェで働く16歳年下のアラム(ジャスティン・バーサ)と恋におちる話。


よくあるカタチのロマンチック・コメディだけど、観ていて気持ちがいい。「マッチョ」なもの…あまりいい言い方じゃないけど、他に適切な言葉が見つからない…が出てこないから。唯一、ボクシングのリング上でカード?を掲げる女性が映った時、こういう世界あったよな〜と思い出した。自分の周りには「マッチョ」なものってあまり無く、感じるのは主にメディアやフィクションに対してだから、こういう映画って、自然に感じられて楽しい。


予告編には「リッチで大人な彼との結婚生活に破れ…」というようなナレーションが入ってるけど、そもそも元夫のルックスや佇まいがしょぼすぎて、別れて惜しいなんて全然思えない。彼女自身も、離婚後だいぶ経ってから「あの頃は楽しいと感じたことがなかった」なんて言う。主人公が新たに生き始めるという話で、邦題「理想の彼氏」じゃぴんと来ない。


サンディは、新居の階下のカフェの店員であるアラムにベビーシッターを頼む。仕事が忙しくなってくると、「フルタイムで頼める?」とさらっと言ってのける。これって、女から男へはなかなか言えないセリフだ。実際は、頼むのも断るのも自由なんだから、誰が誰に言ったって構わないんだけど。
やがて、アラムがベビーシッターを続けるために企業の採用を辞退したことが判明する。いわく「(偽装結婚の被害者経験を経て)僕にとって、大切なのは人間関係だって分かったんだ」。社会生活より身近な人間関係を重要視する人は老若男女問わずいるのに、フィクションにおいてはあまり描かれないから、ここまで言い切るなんて、いいシーンだなと思った。


ラストシーンがあっさりしているのもいい。タイトル通り?ひょんなことから付き合うことになった相手が、じつはベストパートナーだった…という感じをうまく表してる。ホール&オーツの「everytime you go away」(君が行ってしまうたび、僕は哀しい…)に聴き入ってしまった。


冒頭、サンディが女友達に薦められてデートする「トイレ男」、そんなに悪い奴じゃないのに、散々な嫌がられようで可哀そうだった(笑)便器に座りながらキスだってするのが、ロマンチックな関係なのに。まあこの場合、事情が事情だけど。それよりも、このくだりでは、何を「エロい」と感じかるは人によって全然違うという、当たり前のことを改めて思った。自分を顧みても、そんな者同士でセックスするんだから、考えたら不思議なものだ。


監督・脚本を担当したのは、ジュリアン・ムーアの夫だそう。キャストも結構味わい深く、アラムの父親にアート・ガーファンクル(クレジット観るまで分からなかった)、元夫にローレン・バコールの息子(調べて分かった、びっくり)。ロブ・カーゴビッチ演じるアラムの友人の演劇青年は、20年前ならブシェミ、10年前ならリス・エヴァンスに振られそうな役。顔が似てるだけか(笑)