キャラメル


とても良かった。今年一番の作品になるかも。ラストシーンは、今まで劇場で観た映画の中でも最高のひとつといっていい(正確には、エンドクレジットが流れる直前までのシーン。その後の場面も胸が詰まるけど)。
もっとも、私にはその切実さや歓びは想像するしかないものだし、あのあと彼女に何が降りかかるか考えてしまうけど…



ベイルートの美容院を舞台に、店員やお客の女性たちの日常を描いた作品。
オープニング、火にかけた鍋に砂糖を注ぎこみ、はしゃぎながらキャラメルを作る女たち。でも舞台はお菓子屋さんでなく、美容院だ。それを何に使うのか、想像はつくけど、初めてはっきり描写されるのが、店長のラヤール(写真のナディーン・ラバキー、監督も)のああいうシーンだというのがぐっとくる。でも後に彼女がそれを手にするシーンでは、私も是非男の人にあれをして、うめかせてみたいと思わせられた(笑)


初めて観るレバノン映画ということもあり、まずは建物やインテリア(老姉妹のベッドルームが最高)、人々の顔や体、服装、声、光や影、煙、音などのエキゾチックな生活感に心奪われ、またラヤールの暮しぶりに、あんなふうに親と同居なんて(そのこと自体でなく、自由に電話もできない状況なんて)私なら発狂しそうだなあ、などと呑気に考えてたけど、少しずつ、女…もとい社会をカタチ作る規律が立ち現れてくる。
作中初めて「それ」が不気味に姿を現すのは、ラヤールが妻子ある恋人とのお祝いのためにホテルの部屋を借りるシーン。既婚女性であることを示す身分証がないため断られ続けた彼女は、売春婦が使う部屋をようやく確保し、便器を磨きクッションをたたき、「敷物のしみ抜きまでして」部屋を飾り付け、愛する人を待つ。この一連のシーンは、怖くもあるけど、最高に美しい(また音楽が、ずるいくらい良い・笑)
それにしても、あんな活き活きとした世界で自由にセックスできないなんて、生き地獄だと思った。


彼女が恋人と会うのはいつも、自身の古ぼけた車の中だ。いずれの場面でも、相手の姿ははっきりとは映されない。これは、彼がどうであろうと、自分がどういうふうか、自分にとってこの恋は何なのか、という問題なのだ。ふと岩館真理子の漫画を思い出してしまい(笑)あんな健気なことはしないけど、ああいう場面にばかりじーんとしてしまうなんて、私はやっぱり「少女漫画」的な感覚の持ち主なんだなと思った。


とくに前半は、女同士で互いの身づくろいをするシーンが多いのも楽しい。自分の髪すらまとめられない私は、学生時代から母親や友達にしてもらうばかりだったけど、ああいうのっていいものだ。