魚影の群れ


緒形拳が亡くなったというニュース。合掌。
彼にはあまり興味がなかったので、映画の出演シーンもさほど記憶にない。でも今検索してみたら「砂の器」「八甲田山」「鬼畜」「復讐するは我にあり」「わるいやつら」「魔界転生」「楢山節考」「大誘拐」などなど…結構観てる。邦画に疎い私がこれだけ観てるんだから、以前は映画といえば彼、というかんじだったんだろう。
この機会にと近くのツタヤに行ったけど、貸出中のものも多く、日本映画の棚を端からチェックして、最初に顔を見つけたこれを借りてきた。観るのは初めて。


魚影の群れ [DVD]

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83年、相米慎二監督。
下北半島の漁港。マグロ漁師の房次郎(緒形拳)は娘のトキ子(夏目雅子)と二人暮らし。トキ子と海を愛する婚約者の俊一(佐藤浩市)は家業を捨て漁師を目指すが、房次郎は冷たく接する。


漁師にとって「赤」というのは何か意味のある色なんだろうか?緒形拳はいつも赤いセーターに、赤いはちまきだ。
いっぽう彼に教えを乞う佐藤浩市は、黄色のはちまきで船に乗り込む。数回目には巻き方も少しは様になっている。しかし房次郎と絶縁した数年後は、彼のようでなく、帽子をかぶって仕事をしている。


緒形拳は再会した元妻(十朱幸代)に「あんたは人もマグロも同じようなもんだと思ってる」と言われる。夏目雅子は酔った父親の衣服を脱がせる(後にはダンナとなった佐藤浩市のも脱がせている)などかいがいしく世話を焼くが、十朱幸代はどうだったんだろう、それができなかったから家を出て行ったんだろうか?
佐藤浩市は当時20代前半で、ほぼデビュー直後。長瀬智也に少し似ている。始めの白いジーンズ姿は何事かと思ったけど、漁師姿はかっこよかった。


夏目雅子もその母親の十朱幸代も、手癖・足癖がわるくて…というかすぐ手足が出るタイプで、まるで自分を見ているようだった(もっとわるいか…笑)
十朱幸代は中盤のみの出演だけど、夏のドレスに下駄という組み合わせは真似したくなるし、20年ぶりに会った元夫と、昼間はいったん別れたものの、夜になってふと船を訪ねる、そのやりとりがいかにもリアルで、見ごたえがあった。
その後のラブシーンでの緒形拳は、なかなか色っぽい。不謹慎だけど、亡くなったばかりの…つまり命を落としたばかりの男のかつてのこういう姿を見るのは、エロティックなかんじがする。


相米監督の映画は数本しか観たことがないけど、長回しで淡々と撮られたマグロ漁の映像は面白い。自然の驚異、みたいなものを強調せず、人間だけを追っているのがいい。